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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第5章 尾形さん2



 ちなみに衰弱して疲労しきっていた私が、どうやって襲う気満々のヒグマを退けたかというと。

「スルク(トリカブト)を毒矢として使うのは聞いたことがありますが……」
 インカラマッさんは首を傾げた。

「唐辛子を使ったんですよ。それに含まれるカプサイシンが、粘膜に猛烈な刺激になるんです」

 私はボトルを投げてパシッと受け止め、ふところに入れた。

 私はあのとき、護身用に携帯してた自作の唐辛子スプレーを、ヒグマの眼球に吹き付けたのだ。
 ……いやあ、滅茶苦茶な勢いで逃げてったなあ。

「ヒグマは人間より感覚が遥かに優れていますから、唐辛子の刺激も人間よりずっと強烈だったと思いますよ」

 しかし逆に、その刺激で余計に暴れることもありうるので、今から思うと運が良かっただけなんだろう。

「そうですか。それは良いことを聞きました」
 インカラマッさんはニコニコしている。

 良かった。容器については突っ込んでこない。
 私のスプレーボトルは二十一世紀からの持ち込み品。温泉旅館に行ったとき使ってたのだ。
 百年後には百円ショップで買えるものも、この時代では立派なオーバーテクノロジー。
 だから帰れなくなってからはずっと、周囲にひた隠しにしながら所持していた。
 
「よしよし」

 私は鼻面をこすりつけてきた馬を撫でる。
 
『恐らくあのヒグマは、この馬の元々の主人を殺した犯人なのでしょう』
 インカラマッさんはそう言った。
 それでヒグマはそれで人間の味を覚えたウェンカムイ(悪神)となり、インカラマッさんを襲おうとした。

『それを馬に導かれた梢さんが助けてくれた。
 まさしくカムイのお引き合わせです』

 そんな馬鹿な、と思うのだが占い師の彼女はそう信じてるらしい。

 それはさておきヒグマを追い払ったとき、私は重度の脱水症になりかかっていた。
 生き延びられたのはインカラマッさんの看病のおかげだ。

 彼女はアイヌの知識を総動員し、死にかけていた私を助けてくれ、夕張まで送ることまで快諾してくれたのだ。

 そして、彼女はこうも言った。

『あなたは、この世の存在ではありませんね?』

 初対面で明治の人間ではないと見抜かれ、心臓が止まるかと思った。
 
『カムイが人に姿を変えて下りてくるのは、稀にあることだと聞いています』

 いやいやカムイ違うし。
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