【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第5章 尾形さん2
「あ、あなた……誰!? え!?」
驚く女性の声がした。
目と鼻の先。木々の開けた場所に、ヒグマがいる。
でっかいヒグマ。そしてその巨大な前足で押さえつけられ、今にも食われそうな女の人がいたのだ。
アイヌの人だ。耳飾りをしてキツネの毛皮を首に巻いてる。本物のアイヌの女性だ。超きれいだー。
私は衰弱と心身のストレスで判断力がほぼ死んでいた。
だから恐怖はゼロ状態ですたすたとヒグマの方へ行く。
ヒグマの目をガン見しながら。
相手はまっすぐこちらに来る私を、警戒してるっぽい。
「あなた! こっちに来てはダメ!! 早く逃げなさい!!」
自分が食われる五秒前なのに、私に逃げろという優しさ。
助けなくては。
私は歩みを止めず、スタスタスタとヒグマの目の前に行く。
ヒグマが女の人から足をどかす。
そして私に顔を向けた。
殺意と食欲をヒグマから感じた。
「逃げて!! 死ぬわよ!!」
アイヌの人が必死に叫んだ。
だがわたくし、さっきから持っていた『あるもの』をヒグマに突き出した。
そして今にも私を襲おうとしていたヒグマの眼球に、シュッと『それ』をふきつけた。
…………
…………
ここから話はしばらく飛ぶ。
なぜなら高熱で私の意識がもうろうとしていたからだ。
…………
そして、私がアイヌの女性を助けてから××日後。
……私は馬上でぐったりしていた。
そして誰かに揺さぶられ、目を覚ました。
「つきましたよ、梢さん。夕張ですよ!」
弾むような声は私が助けたアイヌの女性――インカラマッさんだ。
私はうーんとうなり、目を開けた。
「…………」
炭鉱の町、夕張。やっとたどり着いた。
……話が飛びすぎかな。飛びすぎだよねえ?
しかしこれには事情がある。
「道中はお世話になりました。インカラマッさん」
私は馬から下りながら礼を言う。
「いえいえ。梢さんは命の恩人です。それにカムイの旅をお助け出来て光栄ですわ」
「は……はは」
ニコニコ笑う彼女はインカラマッというアイヌの美女で、占いをしながら一人旅をしていたという。
私の馬はたまたま夕張の方向に進んでおり、その途中でインカラマッさんが襲われているのを助けたのだ。