【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第5章 尾形さん2
とにかくどこまで進んでも、山である。
このクソ馬、私を舐め腐って言うことを聞かない。
勝手に好きな方向に行き、草を食べたり水を飲んだり。
ただ、そのおかげで水のある場所に自動的に辿り着ける。
馬がいるおかげで夜の暖が取れるし、何より歩かなくていいのは大きい。
もう一つ、尾形さんのマッチがあったので大助かりだった。
おかげで火をおこし、かろうじて水を沸騰させることが出来た。
……いや生水を沸騰させるって大事だからね?
腹を下して脱水になったら死ぬからね!?
その際に食べられそうな木の実などを選別して煮て、最低限度、胃も満たしてる。
ただ精神的なストレスもあって、私の衰弱は進んでいた。
暖は取れるが夜は全く眠れない。ちょっとの物音で過敏になり、ストレスで幻覚も見かけるほどだった。
私は馬に揺られながら、こっくりこっくりうたた寝する。
マッチも尽きかけてるし、限界が近い。
馬が進むに任せているが、一向に人里に下りる気配がない。
いったい、ここは北海道のどこなのか。私は生きて再び人間を見ることが出来るのか……。
「…………?」
そのとき、馬が怯えた様子を見せた。
私はいつ暴れても振り落とされないよう、手綱だけは握った。
「……?」
何か音が聞こえた。人の走る足音だ!!
私の意識が一気に覚醒した!!
「待って待って待って!」
うわ、かすれた声しか出ないし。
こっちから大声を出して気づいてもらうのは難しい。
直接会いに行こう。
私は逃げようとする馬を必死でなだめ、馬から下りる。
そして四苦八苦しながら、手綱を木にくくりつけた。
尾形さんにロープの結び方を教えてもらってて良かった。
「……いやそれどころじゃない。すぐ戻るからね! 待っててね、ホント!!」
早く戻らないと、馬が手綱を引きちぎって逃げそうだ。
私は飢えでふらつく足で、足音のした方向に行く。
懐に手をやり、万が一に備え『あるもの』を構えながら。
そして木に目印をつけながらどうにか歩き、足音の方向へ急ぐ。
やがて木々が開け、少し見通しの利く場所に出た。
「……!?」
あかん。どうもフラフラして判断力が効かない。
熱が出てるかもなあ。
そして、どうにか開いた視界に移った光景は――。