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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第5章 尾形さん2



「だってこの前は――」

 速攻で木の枝のテントを作ってくれたのに。
 尾形さんは横になりながら面倒そうに、

「あのときはまだ雪が積もっていて夜も冷えたからな。だがこの時期なら凍死はしない。
 土方の野郎も、いずれはあの隠れ家を出て動き出す。
 当分世話になるつもりなら、こういう寝方にも慣れておけ」
「…………」

 昼間ヤッたためか、夜はヤラないらしい。
 私は尾形さんの隣に身体を横たえ、目を閉じる。

 当分――か。
 
「梢。もっとこっちに来い。今は何もしねえから」

 尾形さんが私を抱き寄せる。そのついでに、唇を重ねてきた。
 言った通りにそれ以上は何もしてこない。

 何を考えているか未だにつかめないけど、こうして優しさを感じるときもある。

 尾形さんだけではない。隠れ家でも、皆と馴染んできた。
 最初はおっかなびっくりだった家事も、及第点程度には出来るようになった。

 この時代に長居するにつれ、私とこの時代を結びつける糸がどんどん太くなる。
 このまま、この時代に溶け込んで生きていくことも、たまに頭をよぎる。

 ……でも、それは出来ない。

 なぜなら私は、この先の世界に何が起こるかを知っているからだ。

 そのとき私の隣に愛する人がいて、その結晶がいて、傍観することが出来るのか?
 絶対に無理だ。
 間違いなく干渉してしまう。この世界のあるべき歴史を、メチャクチャに狂わせてしまう。
 
 だから――選択肢など最初から無い。
 私は明治から令和に戻る。それだけだ。

 私は、しょせんは『お客さん』なのだから。
 
「――!?」

 寝かけたとき、尾形さんがガバッと起き上がり、そばにあった銃を手に取って構えた。

「梢。下がれ。決して大きな音を立てるな」

 尾形さんの声の意味はすぐ分かった。闇の向こうから獣の足音が近づいてきたからだ。
 クマではなさそうだ。
 だが、大きな獣の足音だ。

「…………馬?」

 尾形さんが銃を下げる。月明かりの中、暗闇から現れたのは間違いなく馬だった。
 人と見てか、私たちの方に寄ってきた。
 
「鞍(くら)も手綱もついているが乗り手がいない……妙だ。梢。俺の荷物からマッチを取ってつけろ」
「はい」

 銃を構えたままの尾形さんに変わり、マッチを擦った。

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