【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第5章 尾形さん2
焚き火がパチパチと音を立てて燃えている。
「いつまで怒ってるんだ。ほら、食えよ」
多少は悪いと思ったのか、夕飯は尾形さんが作ってくれた。
飯ごうによそったウサギ汁だか何だかをよこされる。
ヤケになってすすると、意外に美味しかった。
空腹もあって一気にかきこんでいると、尾形さんは、
「他に何か聞きたいことはあるか? 新兵」
うーん。聞きたいことは山ほどある。でも一度にたくさん答えられてもどうせ覚えられないだろう。
それなら、どうしても知りたいことを一つだけ聞こう。
「クマにあったらどうすればいいですかね」
「あきらめろ」
「…………いや、もう少し生存をあきらめない方向で」
すると上等兵殿は前髪をかきながら、
「決して大声を出さず目を見るな。そして背を向けず、後じさりしながらゆっくり遠ざかる。
――向こうが人を食いたくなるほど腹を減らしてなければ、それでやりすごせるかもしれん」
「人を食べたくなるほど腹を減らしてて、全力で殺しに来た場合は?」
「そのときはあきらめろ。もしくは念仏でも唱えとけ」
何て非情な大自然の摂理。
「一発殴ったら驚いて逃げてくれませんかね」
「腕ごと食いちぎられるか、前足の一振りで肩から先が無くなるだろうな」
怖ぇ!! 北海道の大自然マジで怖ぇ!!
「ヒグマは厄介だ。皮膚が分厚いから刀をブッ刺してもなかなか死なんし、頭は銃弾を弾き返すことがあるほどの硬さだ。
走れば人間に楽に追いつくし、木登りも得意だ。
山に慣れた第七師団の連中ですら、何人か犠牲になっているほどだ」
…………マジか。
クマの怖さは伝え聞いていたから、いちおう、自分なりの護身具は持って来ていた。
でも無駄っぽいな。話したところで歴戦の軍人さんには鼻で笑われそうだし、言うの止めとこ。
「そろそろ寝るぞ、梢。明日は早朝から走行訓練だ」
「足がカチカチです、上等兵殿~」
「本当にそんなことを言う新兵がいたら、蹴り飛ばしてやるところだな」
そう言って、尾形さんは足下に葉を敷き詰めだした。
「……て、それだけ? 何も張らずに寝るんですか?」
尾形さんは乾いた葉の上に、ゴロンと横になった。