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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第2章 月島軍曹&鯉登少尉



「貴女は大雪の中を歩いてこられたのに、その外套はもう乾き、型崩れも一切ない。
 何より、か弱き女性を守るその暖かさ!」

 ……鶴見中尉、めっちゃ私のジャケットに食いついてるなあ。
 てか、額当ての下からドロッと液が垂れてきてないか?

「恐るべき速乾性と保温性、そして耐久力! 実に素晴らしい! この素材を改良すれば、寒冷地で十分すぎるほどに機能する防寒具が出来上がるに違いない!」

 見ただけで合成繊維の利点を見抜くとは。外見は怖いけどすごいオッサンだ。

 実際、現代で使用されている極寒地用作業服や軍の防寒着には、ほぼ100%ナイロンやポリエステルが使用されている。
 合成繊維の発明が、人類の衣服史を塗り替えたと言っても過言では無い。

 ただ、それも第二次大戦後の話だ。明治時代に流通させるわけにはいかない。

「ご息女のために、こういったものを取りそろえることが出来るということは、父君は相当に名の知られた実業家なのでしょう。
 是非、お取引をさせていただきたい! どうかお父君の名前を教えていただけますかな?」

「いや、それはちょっと……」

 鶴見中尉の目がギラリと光った……気がする。

「私は陸軍中尉です。それともお話出来ない事情があるのですかな?」

 近い近い。顔がさっきより近い!! どうする!?

 でも、どうにかここから逃げられたとして、どうやって家に帰る!?
 服だけ渡して逃げたい! でも100%歴史が変わるから絶対に出来ないー!!
 
 私が半泣きになったとき。

「失礼いたします」

 ノックの音がした。そして外から入ってきたのは――。

 え。月島さん!?

 何でここに!!


 月島さんが一礼し、部屋に入ってきた。

「月島軍曹か」

 鶴見中尉は渋々と言った感じで、私から視線を外した。

 私は知り合いの顔を見てホッとした。
 でも月島さんの方は、私をチラッと見たきりで声をかけることもなく、鶴見中尉に敬礼している。

 あと月島さんて軍曹さんなんだ。今まであまり実感なかったけど、本当に兵士さんなんだなあ。
 
「何かあったのか?」
「はっ。遠方の西洋人の牧場にて梢という名の子女が行方不明になり、親族の者が探しているとの情報が入りました!」

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