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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第5章 尾形さん2



 食後、ちょっと小休憩タイムということになった。
 鳥の声を聞きながら、焚き火の前でまったり。
 最近、隠れ家で家事ばっかりだったからなあ。

「尾形さんって、本当に狙撃の名人なんですね。
 あんなに素早く動くウサギを一発で仕留めるだなんて」
「まあな」
 当たり前だと言わんばかりに前髪をかきあげる尾形さん。
 
「ホントにすごい……」
 わたくし、目をキラキラさせて尾形さんの狙撃銃を見る。
 三十年式歩兵銃か。
 当然というか重そうだけど、どれくらいなんだろう。

「尾形さん、ちょっとだけでいいから触――」
「断る。ガキのオモチャじゃねえんだ」

 デスヨネー。
 ススッと尾形さんにもたれるが、敵が懐柔される気配はない。
 でも嫌がられもしなかったので、何となくもたれるままになる。

「それ、裸眼で撃ってるんですよね」
「当たり前だろう。皆そうだ」

 それがもう少し経てば、スコープ付き狙撃銃が一般化されるんだなあ。
 照準器も無しにあんな精密射撃とか、二十一世紀の人間からしたら、化け物かというレベルだ。

 さっきのウサギ撃ちも、本当に鮮やかだった。
 まるで日常の動作を行うような、流れるようなボルトアクション。今も目に浮かぶ。

 そしてハッとする。

「今気づいたのですが、ひょっとして、尾形さんはカッコいいのでは!?」
「はあ?」
 私はまじまじと尾形さんを見る。尾形さんは私の正気を計りかねる顔で、
「おい梢――」
「気のせいでした!」
「殺すぞ」
 敵はこめかみに青筋立てておる。
 だけど、その返答に私の反撃アンテナがピンと立つ。
「ほほう。では肯定してほしかったのですか? 私に! カッコいいと! 言って欲しかったのですか!?」
「いや、別にそういうわけじゃ――」
 敵は『しまった!』という顔だった。

「言って欲しかったんですね! 私に! カッコいいって!!」
「ガキか、おまえは!」

 私、袖でまぶたをぬぐう。
「人間らしい感情がおおよそ垣間見えない尾形さんにそんな願望があるだなんて……この梢、感動の涙を禁じ得ません」
「俺には涙どころか凶悪なにやけ面しか見えねぇけどな」

 山猫が殺気を発してる。何て美しい笑顔なんでしょう。

「さて演習の続きだ。上官をからかう新兵には、懲罰が必要だな」

 えー。

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