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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第5章 尾形さん2



 そういうわけで尾形さんについて山に入り、山歩き講座となった。

 道中、脅すようなことも言われたが、向こうも教える相手が民間人だ。
 簡単なサバイバル指南、みたいな内容を想定してるっぽい。


 尾形さんは先を歩きながら、木を指さし、
 
「梢。山で方角が分からなくなったら木の苔(こけ)を見ろ。多く生えている方が太陽の方角だ」

 いやさすがにそれくらい知ってるって……。

「水に沿って下りれば良いと思って、沢を下ろうとか絶対に考えるなよ。
 単独で滑落して足でも折れば、その時点で助からん」

 だから知っとるわ!!

 ……敵が私の能力を想定以上に低く見積もってるので、ほぼほぼ小学生の登山教室だった。

 でもこの前と状況が違い、私も歩きやすい格好だ。気候も暖かくなっている。

「うわ……!」
 ぬかるんだ雪で足を滑らせ掛けたのを、尾形さんにパシッと手をつかんで支えられた。

「足下をよく見ろ」
「はい。すみません」

 ハイキング気分には遠いが楽しかった。
 お、可愛いウサギさんが笹藪の間に見える。

「尾形さん、尾形さん、ウサギですよ!!」
「どこだ?」
 銃を肩から下ろす尾形さん。
「い、いや、撃って下さいと言ったわけでは……」
「? 他に何をするんだ?」
「…………」

 ダーンと銃声がし、かくして一つの命が天に還った。


 そしてアウトドア教室につきものの『火おこしチャレンジ』となったが。

「尾形上等兵殿、何も出ません!! 煙すら!!」
「力が足りねぇんだ。気合い入れろ、新兵」

 ウサギをさばきながら、鬼教官は言う。
 教えられた通りに木を必死にこすり合わせるが、摩擦熱の『ま』すら起こらない。

「無理っす」
「だろうな。俺がやる」

 おお? お手本を見せてくれるの!?
 ワクワクしながら見てると、尾形上等兵は懐から何かを取り出し、スッと――。

「マッチ!?」
 尾形さんは普通にマッチに火をつけた。たちまち枯葉に火がついた。

「それ、ずるい!!」
「何がだ。一つ勉強になっただろう。素人が火をおこそうとしても、体力を奪われ徒労に終わるだけだと」

「なら口頭で説明して下さいよ!」

 だが山猫はニヤニヤしている。

 こいつ、山に不慣れな私をからかって楽しんでるだろ!

 でもお昼ご飯のウサギは美味しかったのでした……。


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