【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第5章 尾形さん2
でも『もし隠れ家に第七師団が乗り込んで銃撃戦になったとき、足手まといにならず逃げられるように』と頼み込んで、渋る尾形さんを説得したのだった。
「山奥には行かず比較的安全な人里近くでやる。
ヒグマの気配がしたらその時点で中止。何があっても俺の指示に従え」
というのが尾形さんの条件であった。
ただ、隠れ家を数日離れることになるので、家主の許可が必要だった。
土方さんに許可をいただくときは緊張した。
何せ男女が二人きりなのだ。そこらへん絶対にツッコミを受けると思ったのだが。
……皆、そこらへんはスルーだった。
どうも薄々、関係を気づかれていたらしい。
まあ尾形さんも隠してないし、しょっちゅう二人で連れ込み宿に出かけてたしね。
それどころか誰もいないときは隠れ家でイチャついてた。
どうも、そこらへんもバレてたらしい。
顔から火が出るほど恥ずかしいんですが……。
尾形さんは小樽の街を不機嫌に歩きながら、
「言っておくが、自分で教えろと言ったからには甘やかしてもらえると思うな。
軍隊じゃ上官の命令は絶対だ。音を上げたらその場で置いて帰るぞ」
私は慌てて、
「了解であります!……ところで尾形上等兵殿は、私の格好がおかしいと思わないのでありますか?」
「その変な口調も止めろ……別に。前に会ったアイヌのガキも、女なのにおまえと似たような股引きを履いてたからな」
尾形さんは前髪かきあげる。
いや股引きじゃなくてズボンだからね!!
「て、アイヌ!?」
私の目が俄然、キラキラし出す。
「どこで!? どんな格好してたんですか!? アイヌ語話してました!? 山の中で会えますかね!?」
「知るか。本当に置いていくぞ!」
そうしているうちに、町は徐々に遠ざかっていく。
そんな感じで、尾形さんと山にこもることになった……のだが。
数日間。天候や尾形さんの機嫌次第では明日にも隠れ家に戻るかもーと気楽に思っていた。
まさかあんなことになるなんて……思ってもいなかった。