【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第5章 尾形さん2
そして、しばらく経ったある日の早朝。
私は土方さんの隠れ家の前で、全開の笑顔であった。
「準備万端であります! 尾形上等兵殿!!」
ビシッと敬礼すると、敵はげんなりした顔で、
「敬礼は止めろ。どこで誰が聞いてるか分からないんだ。大声も出すな」
「サー、イエッサー!!」
「……」
「梢さん。男みたいな洋袴をわざわざ仕立てなくても、女袴を履けばいいんじゃないですか?
上着だってそんな西洋人みたいな変な……」
と、夏太郎さん。洋袴とは要はズボンのことだ。
そう。私は着物では無く、ほぼ洋装。
隠れ家の前では、物珍しさもあって皆が集まっていた。
私はきょとんとして、
「女袴は山歩きに向いてませんよ。私の格好、そんなに変ですか?」
『……』
皆して頷くなよ!
今日が楽しみで楽しみで、夜なべして作った登山服だぞ!!(家永さんにちょっと……いやかなり手伝ってもらったけど!)
ただ素材が限られてたし洋裁はさっぱりだったので、和洋折衷のような『なんちゃって登山服』になったが。
あと、この時代は『女が股を見せるのは下品!』という風潮が根強いので、ズボンの上にスカートっぽい腰巻きをつけた。
おかげで余計に変に見えるらしい。
「変じゃねえよ。似合ってる。解放されたって顔してるな、梢」
そう言ってくれたのは優しい牛山さんである。
「因習に立ち向かうのは良いことだ。若者はそうでなくては」
頷いてくれるハイカラ老人こと土方さん。この人もブレないなあ。
「家のことは任せてちょうだい。頑張って訓練してきてね」
と家永さん。ちなみに私はこれまで三度ほど、こいつに解剖されかけ牛山さんに助けてもらってる。
「気をつけて行きなさい」
と永倉さん。
皆(勘違いで)、私が天涯孤独になったと思ってるから、何かと私に優しい。
「見世物じゃねえんだ。とっとと行くぞ」
尾形さんだけは仏頂面であった。
「はい!」
荷物を抱え、私は慌ててついていった。
最後に振り返り、
「皆さん、ありがとうございます。いってきます!」
手を振って、すっかり自分の居場所になった隠れ家に背を向けたのだった。
私が尾形さんに頼んだのは、山でのサバイバル特訓だった。
現役軍人さんについて、数日の山岳訓練。
もちろん本人は超難色を示した。