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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第5章 尾形さん2


 
 まず小樽のあちこちに別荘を持つ、富豪の父を持つとおぼしき少女がいた。
 だが彼女の父は経済的に苦境らしく、孤独な少女は父を頼り夕張に行こうとしていた。

 同時期に没落し夕張で自死を遂げた富豪がいた。
 その富豪には、生きていれば私と同い年の妾の子がいたらしい。

 つまり、私のウソと合致する真実が発掘されてしまった。
 ……完全に偶然の産物。けど、たまたまいくつかの符号が一致していたため、皆はそれを結びつけてしまったのだ。

 身から出た錆(さび)、嘘から出た誠。

 額から汗が一滴流れる。

 しかし一度思い込みが生じたものを否定するのは、容易ではない。
 DNA鑑定なんてない。車も飛行機もない電話代すら日給に相当する時代なのだ。
『いやその子、全く関係ねえし』と証言してくれる唯一の元富豪は、知らない間に死んでいる。

 東京まで飛んで親族を探し出して事実確認をし、私が妾の子でも何でもありませんと証明する。
 頭が痛くなるような労力を要するだろう。

 いや、不可能だ。夕張に行く方が一万倍簡単だろう。

 私の内心を全く知らない永倉さんは、茶を飲み終え、立ち上がる。

「梢さんはもうここの一員だ。行く宛てがないからと追い出す真似はしないから、安心しなさい。
 何かあったら私も土方さんも相談に乗るから」

「ありがとうございます……」

 永倉さんはポンと私の肩を叩き、出て行った。

 えー……。

 問題はそれだけではない。

 偶然とは言え、明治時代に私の存在基盤が出来てしまった。これをどう捉えればいいのだろう。

「梢」
「!!」

 気がつかなかった。いつの間にか目の前に尾形さんが座っていた。

 さっきの話、聞いてたのか?

 で、でも私が『妾の子供』って、彼の中で確定しちゃったわけだよね。
 そういうのって、明治時代的には差別対象になったりするの?
 
「何をすればいい?」
「は?」

「いや、今日の昼だよ。言うことを聞くって言っただろ?」
「あ……ああ、それですか」

 状況が状況で完全に忘れてた。
 
 今後どうするか。

 落ち着け。周囲への私の見方が変わっただけ。

 夕張に行って月島さんに会う目的に、何一つ変更はない。

 私はこぶしを握り、言った。

「尾形さん、私に山歩きの方法を教えていただけませんか?」

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