【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第5章 尾形さん2
その晩、私の『頭痛がするから休みたい』という訴えは同情をもって受け入れられた。
夕飯当番で少しもめた後、店屋物を取る案がアッサリ承諾された。
隠れ家にはずるずると麺をすする音が響いたのであった……。
そして、尾形さんや夏太郎さんたちの意味不明発言――『あんなことがあったのに』『状況が状況』等――の真意は割と早く判明した。
「……もしかして、これのこと?」
皆が寝静まった夜の隠れ家にて。
私は卓上に、数日前の新聞を開いていた。
すでにこの時代の新聞は、比較的事実に即した報道がされている。
庶民からは貴重な情報源として、信頼されているようだった。
ただ旧仮名遣いなので読みにくいことこの上ない。が、時間をかければどうにか読めた。
問題の記事は割と小規模な扱いだった。
なので数日前は完全に読み飛ばしていたのだが……。
『没落富豪、北海道にて悲劇の自死』
……何でも東京で投資に失敗した、華族のさる富豪の紳士がいたそうな。
その紳士は夕張での油田開発に再起を賭けたが結局失敗に終わり、悲嘆に暮れて自殺――みたいな内容だった。
ホントにちっちゃい扱いだった。
『まあお気の毒』と読み飛ばして、数時間で忘れるような内容なのだが。
…………まさかこれを皆、勘違いして……?
そのとき、ふすまがスゥッと開いた。
「梢さん、お父君のことはお気の毒だったね」
永倉さんであった。彼は向かいに座り、自分で自分の茶を入れる。
「土方さんも心配しているよ。元気を出しなさい――とは簡単には言えないが」
「あ……いや、その……これは、ち、違うと思います……」
「無理をしなくていい」
永倉さんはどっこいしょと私の向かいに座る。
「土方さんが夕張にいる協力者に調べさせたそうだ」
「は?」
「妾はすでに死去。その娘も幼い頃病死したと伝えられているらしいが――その子が生きていれば梢さんと同い年。
つまり娘は実は死んでおらず、父が本妻に隠して北海道に移していた。
それが梢さん、君のことだろう?」
いや一から十まで偶然! 全然違います!!
……だが世の中には”テキサス狙撃兵の誤謬(ごびゅう)”という言葉がある。
人は物事の因果関係を考えるとき『偶然』の要素を無視しやすい生き物なのだ。