【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第5章 尾形さん2
けど尾形さんは止める気配がない。ニヤニヤ笑いながら、腰を進めてくる。
情交の音がやけに大きく響く。頼むから聞こえないで。
ふすま一枚隔てた向こうから、夏太郎さんの声がする。
「あれ? 梢さんの裁縫箱だ。いつもちゃんとしまう人なのにな」
「他の部屋にもいねえし、鍵を開けたまま買い物か?」
二人の話し声。心臓が止まりそうなのに、クソ尾形は私の口を押さえたまま、焦らすように腰を進める。
ん……っ……ダメ……こんなときに、気持ちのいいとこを、突くんじゃ……。
「梢さんはあれでも相当な箱入りお嬢様らしいぜ。鍵をかけるとか、よく知らないんじゃないか?」
知ってるわ!! いつもかけてるだろうが!! 防犯意識は明治時代のあんたらよりずっと上なんだからな!!
「立花庵が新作の和菓子を出したっていうから、それを買いに行ったんだろ。
甘い物となると、周囲をなぎ倒して全力疾走するからな」
え!? 立花のじいちゃん、新作出したの!? ヤバい、買いに行かなきゃ!
でもなぎ倒すまではしてねぇわ! あんたら、私を何だと思ってるの!!
しかし内なるツッコミもそこまでだった。
「あんなことがあって、表に出さず気丈なもんだよな。
裁縫箱くらい、しまっといてやるか。この押し入れに入れときゃいいだろ」
あんなこと?
だが私たちが立てこもってる押し入れの戸に、夏太郎さんが手をかけた!
押し入れの中に、細いかすかな光が入る。
けど――ここに至っても、クソ尾形は腰を止めない。
ズグッと音を立てて突き上げ、胸をもみしだき、舌を絡めた。
もうダメだと思った。
「馬鹿、押し入れはどこも満杯だろ。それに姐さんはいつも箪笥(たんす)の上に裁縫箱を置いてるぜ」
亀蔵さんの声がした。
「ああ、それもそうだな」
開きかけた押し入れの戸がスッと閉まる。
押し入れの中は再び暗闇に包まれた。
そして二人が部屋を出て行く。
『腹減ったな。夕メシは先だし、蕎麦(そば)でも食いに行くか?』
『お、いいな。どうせ他の奴らも帰りが遅いし――』
声が遠ざかり、程なくして家の戸が閉まる音。鍵がかけられ――沈黙。
「…………」
やっと手が離され、
「尾形さ――……ん!?」
文句を言ってやろうとしたが、思い切り最奥を抉られた。