【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第5章 尾形さん2
「おまえの怒りが収まるなら言うことを聞いてやるから、言えよ」
「…………」
あの尾形さんがここまで譲歩するとは!
我が交渉術(ネゴシエーション・スキル)に驚愕せざるを得ない!!
「言っておくが、今すぐ夕張に連れて行けとか、定職につけとか言うのは止めろよ?」
ちょっと読まれてた。あと無職いじりはごめんなさい。
私は指をはじき、
「その提案、乗りました! では詳細は後日詰めましょう――よし!」
お菓子を目の前に『おあずけ』されっぱなしの犬に言うように言った。
「……腹立つな、おまえ」
低い声で言われるけど、今は私の方が立場が上だし! くく。いい気味!!
「ふが!」
少し乱暴に顎をつかまれた。
驚いて見上げると、尾形さんがこちらを組敷き、薄闇の中でも分かるほど邪悪な笑いを浮かべていた。
「俺相手に調子に乗ったこと、後悔するんじゃねえぞ」
……後悔し始めてます。今。
でも唇を重ねられ、その言葉が出ることは無かった。
…………
「……っ……っ!……っ、っ、……!」
暗闇の中に、ぐずぐずといやらしい音が響く。
私は声をもらすまいと両手で口を押さえていた。
「梢。声を押さえなくていいぞ。どうせ誰もいねぇだろ」
間近の山猫は、ニヤニヤしながら、私の膝を抱え腰を打ち付ける。
うう。狭いから膝がほとんど身体につきそうだし。だから嫌だったんだ!
およそ情事に適当とは言えない、狭い押し入れ内。
ろくに身動きが取れないスペースの中、尾形さんは器用に着物の前だけはだけさせ、激しく突き上げてくる。
「……ん、……っ、っ、ん、ぁ、……!」
着物を着ているけど、着ていない。身体をはだけさせられ、反応しているのも濡れているのも、全て見られている。
「声、出てるぞ、お嬢さん」
うっさい! 押さえるなというから!
クソ軍人はシャツの前ボタンを開けた格好だ。余裕の顔だが、かすかに汗をかいている。
「……っ……ゃ、ぁ……っ」
狭い押し入れ内で、ほとんど身体が密着している。
鍛えられた腹筋が、抉る度に熱を増す。
熱いし、薄暗い。
この前の闇夜の交わりほどではないけど、でも押し入れの中というのが『してはいけない』ことをしているようだった。