【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第5章 尾形さん2
隠れ家とは隠れ家である。つまりは通常の家と異なるモノが多いのだ。
武器も隠してあれば、保存食の備蓄もある。むろん、突然敵が攻め込んできても良いように、すぐに取り出せる旅道具セットなどもある。
とどのつまり、どこの押し入れも物で満杯なのだ。
だが尾形さんが私を押し込んだ押し入れは、持ち出しでもあったのか、その日に限って何も入ってなかった。
狙ったのか、たまたまだったのかは謎であるが。
「待って待って待って」
暗闇の中で、がさごそと身体をまさぐられ、私はデカい山猫の身体を必死に押す。
「何だよ。すぐ終わらせてやろうとしてるのに」
銃をどうにか狭い押し入れ内に置き、敵は不平そうに言う。
情事の場にも持ち込むんかい、その銃。
「同意した覚え無いし。それに私、まだ怒ってるんですからね?」
「は? 何をだ?」
尾形さんのアホ毛――ゴホンゴホン!!……じゃなかった、飛び出た長い毛を腹いせに引っ張った。
「私を第七師団に捕まえさせて、その隙に自分だけ逃げようとしたことですよ!」
私をだましたことに、未だ謝罪がない。
そのことにずっとモヤモヤしていたのだ。
「はあ? 今さら何だよ。それはこの前の殺人未遂で皆、チャラになっただろ?」
……カマを振りかぶって襲いかかったときのか。確かにあのときは殺す気だったが。
「それとは別! 一言謝って下さい」
帯を緩められながら、尾形さんの額をコツンと叩く。
するとしばし沈黙があり、
「………………………………悪かった」
ボソリ。
絶対悪いと思ってない謝り方!!
「これでいいだろ?」
奴はそう言って、さっさと着物をゆるめようとしたが、
「全然良くないし、納得いかないし」
「…………」
今、確実に『女って面倒くせぇ~』みたいなこと考えてるな。
あと、許可してないのに着々と脱がしてるし。肩と胸が見えちゃって、触られてるし。
「尾形さんはズルいです。私は子供じゃないんだから、私の安全を優先してくれるにせよ、一言何か欲しかったです」
なだめるように胸もとに口づけられるが、不機嫌に嫌味を並べ立てる。
すると尾形さんは愛撫を止め、長々とため息。
「じゃ、何をすれば梢は俺を許すんだ?」
「ん?」
尾形さんは薄闇の中、面倒くさそうに前髪をかき上げていた。