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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第5章 尾形さん2



 尾形さんが背中に寄っかかったきてた。
 裁縫箱を畳に置き、座り直す。

「尾形さん、重いっす」

 さらに寄っかかってきた。

「重いて」

 さらにさらに寄っかかってきた。畳にべたーっと横になると、上に乗ってきた。

「梢……」
 腰に手を回すな。盛りのついた猫か!!

「やらないですからね? 真っ昼間だし」
「なら茶屋に行かねえか?」
 連れ込み宿に行こうと誘われてる。

 私は尾形さんの頭を押し、横にどかせた。
「夕食の準備があるんです!」
「家永にやらせりゃいいだろうが。あいつはほっとくと、そこらへんの通行人を拷問解体するような奴だぞ」

 ……何でそんな凶悪犯を堂々と放置してるんだよ。

「というか尾形さん、また荒事をされてきたんですか?
 ちょっと座って下さい。縫っちゃうから」
 起き上がり、裁縫箱を取る。
「別にそんなのは――」
「いいから動かないで。着たままやっちゃうから」

 裁縫箱を開けて、手早く針と糸を取り出す。
 縫い物スキルなんて超短期集中講座での付け焼き刃だが、何せここは男所帯。
 毎日のようにつくろい物が出るので、縫いまくってるうちに嫌でも上達してきた。

 私は尾形さんを座らせ、取れかけたボタンを縫い直す。

「金塊だか何だか知りませんが、無理はしないで下さいよ。死んだら元も子もないんだから」
「…………」

 尾形さんは大人しく座っていて、ボタンをつける私を見ていた。
 静かな午後だった。

 …………
 
「ほら、つけ終わりました。それじゃ、私、夕飯の仕込みに――」

 ガシッと腰に抱きつかれた。

「……すぐ、終わらせるから」
「尾形さん」
 私の声は氷点下だっただろう。

「牛山は女郎屋だ。他の連中はその付き添い兼、偵察任務。土方たちは支援者との会合で夜まで戻ってこねえ」

 そういえばそんなこと言ってたか。どうりで隠れ家が静かだと思った。

「梢」

 懇願。

 誇り高き山猫らしからぬ、切実な懇願がそこにはあった。
 いったい、さっきのやりとりのどこに刺激するモノがあったのだ。

「いやでも、いつ誰が戻ってくるか分からないし――」
「だから、すぐ終わらせるから」

 逆らったが、ずりずりと手近な押し入れに引きずり込まれた。

 暗闇に入ったところで、パタッと押し入れの戸が静かに閉まった。

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