【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第5章 尾形さん2
小樽にいくつかある、土方(ひじかた)さんの隠れ家の一つ。
私はそこで、朝から晩まで忙しく働いておった。
「梢」
「…………」
「おい、梢」
「…………何ですか、尾形さん」
繕い物をしてたら、尾形さんが入ってきた。
家の中でまで、肌身離さず銃を持ち歩くんかい。あと、外套脱げや。
尾形さんはどっかり座り、
「少し休めよ。働きすぎだろう、お嬢さんが」
「そんなことは無いですよ。まだまだ要領が悪いから、毎日やってないと勘が鈍るし」
手を止めず、さっさっさとほつれを縫いながら言う。
「おまえが何でもかんでもやることはねえだろう。土方の金があれば、余裕でもう一人くらい雇えるんだし……俺が言ってやろうか?」
「…………」
『らしくなさすぎ』な言葉に目を丸くして、まじまじと尾形さんを見る。
「な、何だよ」
「いえ……」
フラッと行き先も告げず消えて、何日も戻らない。
かと思えば、たまに帰ってきてはまとわりついてきたり。
尾形さん、マジで猫である。
「嫌々じゃあないですよ。賃金もちゃんと出てるし、起きられるようになった家永さんも手伝ってくれてます。
力仕事は夏太郎さんたちが喜んでやってくれるし、そこまで忙しいワケでもないですよ」
夏太郎さんたち、というのは茨戸で部下になった人たちらしい。
何をやってきたのか知らないが、土方さんと永倉さんの強さに魅せられ、以来心酔してるそうな。
……ちなみに初対面時で見せた私の行動は、彼らに強烈なトラウマを与えたらしい。
年下であるに関わらず、私はほぼ『姐(あね)さん』扱いであった。失礼な!
「うーん……こんなもんかな。後で家永さんにチェックしてもらおう」
糸切りばさみで余った糸を切り、縫い上がりを確かめる。
「あいつは野郎だろ?」
「だからこそ、女性より女性のことに詳しいですからね」
『どんなに気を許しても二人きりになるな』とは牛山さんからしつこく言われてますが。
「さて、次は――」
「終わったのか?」
「まさか。まだやることは、たくさんありますよ」
「だから、他の連中にやらせればいいだろうが」
てしてしてし。苛立たしげに振られる尻尾が見えるよう。
「…………」
裁縫箱を片付けようとすると、背中に重み。
尾形さんが背中に寄っかかってきていた。