【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第5章 尾形さん2
そもそも、私がこの隠れ家に預けられたのは、トメさんなるお手伝いさんの手伝いをするためであったのだが……。
「い、いやあ、その、トメさんのしつけがあまりにも厳しくて、ついこちらも本気で応戦……じゃなかった、熱意にお応えせねばと頑張りまして――」
二十一世紀の人間たる私は、家のことなどほとんど何も出来ない状態だった。
だから通いのトメさんに教わることになったんだが。
その人が江戸っ子で、一昔二昔前のドラマに出てくる『鬼姑』そのものの人だったのだ。
私に家のことを叩き込んでくれるのはいいけど、鬼軍曹もかくやという厳しさだった。
最初の内、私は深夜、皆が寝た後に柱の陰で泣くような生活を続けてた。
……だが私は自分自身を知らなかった。
わたくしがキレやすい今どきの若者で『限界までため込んだ後に爆発させる』というスキルを持っていたことに……。
それである日、その……ついその、何だ――『覚醒』してしまったのであった。
「いやあ、あれはすごかったぜ。
深夜にトメのばあさんとカマと包丁で斬り合った挙げ句に、でけぇ漬物石振り上げて『クソババア! てめぇの腰痛を椎間板ヘルニアにメガ進化させてやろうか!!』と三軒隣まで起きる大声で絶叫してな。
俺が止めなかったら確実に近所に通報され――」
「牛山さあああああんっ!!」
……ちなみに牛山さんが私を口説いても無理強いしてこないのは、私の『覚醒』バージョンを見ているからである。
だが死闘を通じてトメさんとは友情が形成され、改めてちゃんと家のことを教えてもらえた。
そして急ごしらえではあるものの、家事を一通りやれるまでになった。
うん! おしまい!!
「椎間板ヘルニアって何だよ」「メガ進化……?」
ギャラリーがざわざわしてるけどな!!
あと尾形さんが、銃をいつでも撃てる状態に抱え直したのは何故だ!
「結構なことだ。ここで荒くれ者たちとやっていくのなら、それくらいの気迫がなくてはな」
おお。土方さんは大物だ。
「梢。約束は約束だ。いずれ夕張には連れて行ってあげよう。だがもう少し待っていてくれ。色々とやることがある」
「あ、ありがとうございます!」
やったあ!
……だがかなり時間が経ってるし、マジで月島さんと行き違いにならないか戦々恐々なんだが。