【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第5章 尾形さん2
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土方さんたちは茨戸(ばらと)という、札幌の方からお帰りになったらしい。
長旅が終わった皆さんは、居間に集まり囲炉裏(いろり)を囲んで、思い思いにくつろいでいた。
私はお疲れの皆さんにお茶をお出しする。
そして尾形さんに最高の笑顔で、
「嫌だなあ。さっきのは冗談ですって♡
だって尾形さんは私の恩人なんですよ? 本気で殺そうとするわけないじゃないですか♡」
「嘘つけ!! あれは完全に俺の首を狙ってただろうがっ!!」
猫なら毛を逆立てているところだろうか。
尾形さんは本気な感じで怒鳴ってきた。
「梢をだまして金品奪って軍に売って逃走したってクズはおまえだったのか?
困っているお嬢さんをだますとは、日本男児も地に落ちたものだな」
あぐらをかいた土方さんは、私が淹れた茶を飲み、長々と息を吐く。
「金品までは奪ってねえよ!……ひと晩経って、やっぱり軍に任せる方がいいと思ったんだ。
あんたらだって、その方が安全だと思うだろう?」
「夕張に親がいるのなら、そちらに連絡させた方がいいのは明白だろう」
と、土方さん。だが尾形さんは皮肉げに私を見、
「その話が本当なら、だろう?」
やっぱ疑われてたのか。
裏切られたのはショックだが、私も尾形さんにウソをつきまくっているからな。
私たちはどっちもどっちなのである。
「土方さん。本人の前で話すことではないでしょう。
それより梢さん、しばらくお遭いにならないうちに、ずいぶんとお変わりになったようだ」
と、ずずっと茶を飲みながら永倉さん。
私はお盆を持ち、ニコニコと笑顔で、
「あはは。それはもちろん――」
「ここら一帯で評判になってるぜ。顔は可愛いがとんでもねぇ鬼嫁が嫁いできたらしいってな」
牛山あああぁっ!!
いつの間にか牛山さんが居間に入ってきてた。
どうやら、家永さんにお粥を食べさせ終わったらしい。
「牛山辰馬か。おまえさんのことも鶴見中尉から聞いているぜ」
尾形さんは牛山さんのことを知っているらしい。
『牛山!?』『もしかして、あの”不敗の牛山”?』と、後ろに控えたはっぴ姿の人らがざわざわしてるが。