第1章 つかの間の恋
男ー阿伏兎と名乗った。の買い物は、大量の食品だった。
お菓子やジュースをどんどん買って行く。
「すごい量ですね」
「うちの団長が大食いでな。あれこれ買って来いって言われたんだ」
「団長?」
「あぁ、第七師団のな」
「え…?」
私は思わず足を止めた。
「どうした嬢ちゃん」
「いえ…第七師団って、春雨のですよね?」
「あぁ」
「…」
「どうかしたか?」
阿伏兎は怪訝そうな顔をしたが、私の思考に気付いたのか、ニヤリと笑った。
「ヤベーのに声かけちまったと思ったか?」
言い当てられて私は頬を熱くした。
「だって、みんな、ろくなもんじゃないから、あんまり関わらない方が良いって…」
「ハハハッ確かにな。そりゃ間違いねぇや」
阿伏兎があまりに屈託なく笑うので、私も気まずさを忘れて笑ってしまった。
噂は色々あるけど、この男は悪い奴では無いと思った。
「びっくりした。結婚してんのか」
お礼にと入ったカフェで、阿伏兎は目を丸くした。
「そうですよ。嬢ちゃん嬢ちゃん言うけど、これでも人妻です」
指輪を見せると、阿伏兎は頭をかいた。
「女の歳は分かんねぇや。けど、良いのか?人妻がこんなのと買い物なんかして。しかも俺は、ろくなもんじゃない第七師団だぜ」
ニヤリと笑うその顔に、私も笑い返す。
「あいにく主人は出張中なの。明後日まで帰らないわ。それに、この星の住人は結構たんぱくと言うか、あんまり他人に興味が無いのよね。だから楽なんだけど」
「へぇ、そうかい」
阿伏兎はそう言って、コーヒーをグビッと飲むと、またニッと笑った。
「じゃあ、明日も案内頼めるか?」
「え?」
「信じらんねーだろうが、この菓子、団長なら、今夜中に半分は喰っちまうんでな」
阿伏兎の指した大量のお菓子を見て、私は痛いくらい目を見開いた。