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「ほととぎす」「難波江の」

第1章 つかの間の恋


あの日の事を、私はきっと一生忘れない。
少しざらついた木綿のシーツの感触も、男の体から漂った、乾いた土のような匂いも。

星々の間を行き交う宇宙船のターミナルとなるこの星に住んで、もう三年になる。
結婚した相手が天人と地球人のハーフで、新居が地球以外と聞いても、既に身寄りのいない私には異論など無かった。
それに、この星は面白い。
家は市場に近く、その市場はまるで迷路の様に複雑に入り組み、住み始めた頃はしょっちゅう迷子になった。
今は大分慣れたが、それでもふとした時に無駄に遠回りをしてしまう事もある。
あの男と出逢ったのも、そんな時だった。

いつものように買い物に市場に来たが、行き付けの店にお気に入りのジュースが無く、少し離れた店で買って帰る途中、久々に道に迷った。
この市場は、一本通りを間違えただけでワケが分からなくなる。幸い、顔なじみの店員に出くわし、通いなれた所まで連れて来てもらった私は、周りより頭ひとつ大きな男に気づいた。
髪が長く、マントを羽織ったその男は、途方にくれた顔でキョロキョロしている。
雰囲気で分かる。あの男は旅行者だ。迷うのも無理はない。
私は特に深く考えず声をかけた。
「もしかして迷いました?」
男は私を見ると苦笑いを浮かべた。
「あぁ、噂にゃ聞いていたんだがな。予想以上に分かんねぇ。どっから来たかも分かんなくなっちまった」
頭をボリボリかきながら言う様子に、私は吹き出した。
「無理も無いです。私住んで三年だけど、たった今もちょっと迷子になりかけたくらいですもん。なに買うんですか?案内してあげます」
人見知りしないのと、多少おせっかいなのは長所だと思っている。
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