第10章 練習試合後
笠松さんに教えてもらった水道に行けば黄瀬君の姿が見えた。
『黄瀬君!』
「一花っち…?」
綺麗な目を見開いてこっちを見る黄瀬君。
擦ったのか少し目が赤かったのが痛々しかった。
『お疲れ様。はい、タオル。』
タオルを差し出すと申し訳なさそうに
「ごめん、もう貰っちゃったス…。」
そう言って謝る黄瀬君。
それなら良かったと返せば、しばらく沈黙が続く。
その沈黙を破ったのは黄瀬君だった。
「カッコ悪いとこ見せちゃったスね…。」
『…どうして?』
「だって、あんなにデカイ口叩いといて、結局負けたんスもん。」
『私はそうは思わなかったけど。』
「一花っち…。」
確かに最初の黄瀬君の態度にはムカついたし、目に余るものがあったけど、試合の終盤になっていくにつれてムキになりながら勝ちにいく黄瀬君はカッコいいと思ったし、試合後に泣いていた黄瀬君の人間臭い部分が見れて私は嬉しかった。
全て帝光時代では見れなかった姿だったから。
『黄瀬君、負けてみてどう思った?』
「…こんなに胸糞悪いもんなんだと思ったっス。」
『そう。』
「…でも!それ以上に今は強くなりたいって想いの方が強いっつーか、バスケがしたいっつーか…。その、上手く言えないけど、なんだか清々しいっスわ。」
その言葉が聞けて何より安心した。
この敗北が黄瀬君の力になって、きっと次戦う時はもっともっと手強くなる。
『黄瀬君、その言葉が聞けて安心した。』
「そうっスか…。俺、一花っちの言いたい事が今なら分かる気がするっス。」
『そっか。…次戦う時も負けないからね。』
「それは俺も同じ気持ちっス。」
お互い宣戦布告をしながら笑い合う。
…今なら、あの頃に戻れるかな。
『また戦おうね、涼太。』
久しぶりに名前で呼べば、驚いたように動きを止めるきせ、いや、涼太。
「えっ…、今、名前。……一花っちー!」
今にも飛びついてきそうな勢いで両手を広げて走ってきたので、その手を躱しながら別れの言葉を告げ走っていく。
『じゃあ、私急いでるから!またね!』
誠凛の皆んなが待つ所へ。