第3章 分岐
5人が解散した後も、赤司だけは体育館に一人佇んでいた。
それはある少女を待っているためだ。
やがて、体育館のドアが開き一人の少女が赤司に鈴の鳴るような声で呼び掛ける。
『…待たせちゃったみたいで、ごめんなさい赤司君。』
「あぁ、構わないよ。」
その少女を見るなり先程までの緊張した表情を崩す。
「…久しぶりだね、一花。どうして今まで顔を見せてくれなかったんだ?」
『それは…。』
「以前のように"征君"とは呼んでくれないのか?」
少女の頬を優しく手の甲が伝う。
少女は少し顔を俯かせ、
『それは、私なりのケジメだから。』
弱々しくも凛とした声でそう告げる。
「…フッ、まぁいい。あいつらとの一連の事で唯一誤算があったとすれば、お前だ、一花。まさか、あいつと同じ高校に進むとは…。」
少し悔しそうな声色で言葉を紡ぐ。
『どういう事…?』
「何でもない。その時になったら分かるさ。…ただ、」
そこまで言うと、先程まで頬を撫でていた手で優しく首を絞める。
『……!あ、赤司君!』
「ここまで思い通りにならないとは。…いずれ後悔することになる、僕から離れたことを。」
『……。』
「これだけは忘れるな。一花、お前は俺の物だ。」
それは異様なまでの執着だった。
「全国大会で会える事を楽しみにしているよ。」
さっきまでの雰囲気とは違い、優しく恋人にするようなキスを額に落とし彼は体育館を去っていった。