第8章 訪問者
勝負はあっという間に着いた。
3-0で私の勝ち。…でもさすがに黄瀬君相手だと、体力を使うから心臓が大きく音を立てて動く。
「ハハッ、やっぱ敵わねぇっスわ。」
『そんなことないよ、黄瀬君はすごい強くなってる。自信持って。』
そんなこと言いながらも自分の身体の限界がだんだん短くなっていることを自覚した。
「…一花っち。」
『何?』
「その"黄瀬君"ってゆうのやめてもらえないっスか?」
『…それは。』
「昔みたいに涼太って呼んでよ。」
『それは…できない。』
「なんで!!」
黄瀬君に思いっきり肩を掴まれる。
「俺たちがあんなことしたからっスか…?」
『…違う。これは私なりのケジメなの。』
「ケジメってなんスか。」
『全中の決勝を見たとき私はもうバスケをやめようと思った。もう、私のせいでバラバラになっていくみんなを見たくなかったから。』
「一花っち…。」
良かれと思って考えた練習メニューが彼らの才能を開花させ、彼らを苦しめた。
その罪悪感から逃げるために私はバスケを遠ざけようとした。
でも、できなかった。
バスケが大好きだったから。
全中の時、誠凛の先輩達のバスケを見て涙が出た。
まさに私の目指したバスケのそれだった。
チームメイトを信じ、全員で全力で楽しみながら本気でぶつかるバスケ。
自分の不甲斐なさに涙を流し、そして決意した。
キセキの世代を倒すと。
彼らの笑顔を取り戻すと。
『もうバスケから逃げない、っていうケジメ。…黄瀬君。あなた達が楽しんでバスケができるようにするために。』
「バスケを楽しむ?…そんなの無理っスよ。俺らより強い相手なんて居ない。楽しむ以前に勝負にならないんスもん。」
『だから、私があなた達を倒す。私の大好きなバスケで。もしも黄瀬君達がバスケを大好きになれそうになったら、その時は名前で呼ばせて?』