第7章 日本一に
「今日は遅くまで付き合わせちまって悪ぃな。」
『ううん、全然大丈夫!私も楽しませてもらったし!』
「なら良かった。」
その後は二人で他愛もない話をしながら帰り道を辿る。
なんとなく二人の雰囲気が落ち着いてきたところで、思い切ってさっきの疑問をぶつけてみることにした。
「なぁ、一花。」
『何?』
「お前、俺に何か隠してる事ねぇか?」
………。
少しの沈黙の後、一花は薄く笑みを浮かべ、
『何も無いよ?』
と言った。
明らかに嘘をついている顔で。
けど、あまり突っ込んで欲しくなさそうだったからこれ以上は聞かないことにした。
「そうか。ごめんな、変なこと聞いて。」
『ううん、大丈夫。』
その言葉を最後に二人に無言の時間が流れる。
その間も俺はさっきのことが頭から離れなかった。
こいつは誰よりもバスケに真摯で、真面目で、誠実だ。
バスケを大切に思い、誰よりも楽しもうとしている。
なのに、何故プレイすることから遠ざかる?
一花ほどの選手ならどこでもトップクラスの選手になれるはずだ。
ならどうして、マネージャーなんかになったんだ?
だいたい初めて俺たちが1on1しようとした時の黒子の態度も変だった。ひどく焦ったように一花がプレイするのを止めようとしていた。
考えれば考えるほど分からない。
やっぱりこいつにはバスケをしちゃいけねぇ理由でもあんじゃねぇのか…?
一花自身に聞いてみたかったけど、
『……?』
無邪気に首を傾げて微笑む一花にそんなことは聞けなかった。
『火神君、結局家まで送ってもらっちゃってごめんね…。』
「いいんだよ、別に。最初からそのつもりだったし。」
結局あれからはバスケに関しては何も聞けず、先生たちの話題で盛り上がった。
『じゃあ、また明日ね。』
「おう、んじゃあな。」
『うん、バイバイ。』
俺が見えなくなるまで見送ってくれる一花。
俺は見えなくなる寸前にもう一度振り返り手を振る。
すると一花は嬉しそうに腕を勢いよく振り返してきた。
ちょっと気恥ずかしかったけど、柄にもなく心臓が速く動いたのは俺だけの秘密だ。