第2章 グラン・テゾーロ
とは言ったものの……先ずは天竜人達に気に入られなければいけない。現状のままじゃ最悪一生この生活を送るハメになる。
フィッシャータイガーが行った奴隷解放の偉業の後だから脱走も多分更に厳しいだろう。
作中ではまだ語られていないからなんとも言えないけど……!
考えごとをしながらついて行くと、ずっと暗かった視界が気付かぬうちに解き放たれていた。
……外だ。
「!!」
波の音、青空が目に入る。一瞬眩しくて目を背けたがさっきの場所よりはマシだ。
天竜人が所有する船だけあって縦も横も大きく、海が遠く、空が近く感じる。さっきまでいた場所は船内であり、しかも下の方になるのかな。
「お父上様〜やっと起きただえ〜」
天竜人に連れられて、この船の上では最高権力者であろう『父上』が前に立っていた。
慌てずに落ち着いて真顔を保つ。
「そうかえ、全く不躾な奴だえ」
名前は忘れてしまったけどこの天竜人もみたことがある。
ちらりと横を見るとふらつきながらも寄り添っている美しい女性、絶望的な表情をした魚人の男が立っていた。
「(奴隷……人魚を欲しがったりするだけあって見境ないな)」
この世界が今何年なのか、世界は今どういうことが起きているのかも知らないと下手なことは言えない
「ほら、お父上様にも挨拶するだえ!」
ぐっとひっぱられ首が若干締まる。少し息を詰まらせながら『名前』は自己紹介をした。
「はじめまして、倒れていたところを救って頂き感謝します。貴殿に仕えることができ光栄です」
「……ふん、なかなか忠誠心の高い奴隷だえ」
そういい『父上』は眼鏡をくいとあげて気味悪そうな顔をした。
確かに喜んで奴隷になる人は少ないだろう、天竜人は残酷だからどんな扱いを受けるかもわからない。
「先ずは印をつけるえ」
「印……っ!」
もしかして天竜人の紋章……!
背中を熱した鉄で焼き紋章をつけるクソ痛いやつだ!
「(けど避ける術なんて無いし……あ)」
ふと昔の思い出が蘇りその気持ちも失せた
「(あぁそうだ、これも現実で同じことを……)」
「どうしたかえ?やっと怖気付いたかえ」
自分の不幸さを嘲笑いながら『名前』はこたえた
「いえ、仰せのままに」
『名前』の瞳が輝き彼女の気づかぬうちに笑みを浮かべる
その笑みにその場にいた皆がぞわりと身を震わせた