第12章 新たな刺客
聞き返すと待っていましたと言わんばかりに男は背に隠していたアタッシュケースを前に出し、それを開けた。中は予想通り大量のチップやら束やらとグラン・テゾーロ内で使える通貨。ざっとみて3000万ベリー分より少し多いぐらいだろうか。
「簡単な話です、貴方と出会えた記念そのお礼にこのお金を融資いたしましょう。貴方ほどのものが今ここで廃れるはずがない!戦えば逆転するに違いありません!」
「……。」
やっぱりそうだ、こちらに後がないのをみて無理やり借金させてきやがった。あれだけ騒いでいたのだから良いカモだと思って声をかけてきたのだろう……しかし後がないのは事実。
ぼうっとチップを眺めていたらアタッシュケースはバタンと閉じられ、今度はずずいと男の顔が近づいてきた。
「どうです、ここで"部下の危機"を救えば名をあげられるかも知れませんよ?」
「あー……。」
いつもなら ンなもん余計なお世話だクソ喰らえ。──ぐらい即答するだろう。しかしもはや今、反抗心すらでない。こうやって胡散臭い交渉をされていても現実に頭がいっぱいで部下は誰1人気づかないままだ。未だに愛刀だの自分のせいでだのと言ってやがる。
俺としてはこれ以上巻き込まれたくはないし、このまま放置すれば除名やらなんやらで済んで借金を作ったあのバカに金の責任がいくだけだ。俺がここで賭ける必要なんてないんだが……。
「ハッそうだな、どうせならもう全部───」
「……待って!」
「「!?」」
スモーカーの声を無理に遮りながら2人の前に人が飛び出す。驚いた彼は目を見開きながら、邪魔をされた男は疎ましそうに声のするほうを見たがすぐにスモーカー同様に え、と目を見張った。
「はぁ……はぁ……。」
呼び止めたはいいものの、急いで来たのか息切れをして話すに話せない状況のようだ。なんなら咳までし始めたのを見て2人で心配になっていた。げほ、と咳を抑えようとしつつ、その奇妙にも生暖かい目に気づいたのか息を整えながらも手で 待って とジェスチャーしている。さすがのスモーカーも思わず声をかけてしまった。
「おい大丈夫か……?」
「ンン゛──大丈夫ごめん、あー焦った……。」
そう言い咳払いをして声を、歪んでしまったネクタイを整えているとさっきまで流暢に喋っていた男が絞り出すように声を出した。
「…………『名前』、様?」