第5章 Investigative
そう彼が言ったのを聞き届けた『名前』は元の笑顔に戻った
「それはなによりですお客様、引き続きお楽しみ下さいませ」
「は、はひ……」
そうして『名前』はでは、とお辞儀をして周りの視線を感じながらも厨房へと戻った
厨房から覗いていたらしいシェフ達も目を丸くして『名前』を見つめる
それも無視して『名前』は次のお客への料理を取る
「さて次は……」
そういい次の料理に手を伸ばすと手を叩かれた
「!」
次の瞬間には『名前』の目の前には酷く怒ったチーフが現れてそうしてやっと私は彼に胸ぐらを掴まれていることに気づいた
「__お前どういうつもりだ!」
「……何がですか?」
至極疑い無い目を向けると彼はさらに顔を赤くした
「グランツィエを誰だと思ってるんだ!アイツのバックのことくらいわかってるだろう!?」
「……バック?」
「っ〜!あいつは有名なマフィアがついているんだよ!もしこれで目をつけられたりでもしたら……!」
……成程、さすがグラン・テゾーロ
映画では言うほど語られなかったカジノにあるまじき闇深さがここで見られるとは。
確かに今の行為はマズかったな。
この流れだと確実に私……
いやこの店に目をつけられて襲われる流れだ、なぁ__と考えながら
目の前に振りかぶられた拳が降ってくるのをただ呆然と彼女は眺めていた
そして殴られると思っていたがその拳はすんでのところで振りかぶった本人によって止められた。
想定外のことに はて? と『名前』は首を傾げる
「?」
「?!なんで、と、止ま……動かない!?」
私の目の前にある拳はふるふると震えたまま動かない。
その理由はチーフ本人にも分からないそうで、彼はどんどん得体の知れない何かに恐れて表情を強ばらせた。
「……お客様が待ってますから、話は後で聞きますね」
時間が勿体ないと思った『名前』はチーフの力が抜け緩くなった
私の胸ぐらを掴む手をどけた
そのままとるはずだった料理を持ちホールへと向かう
「!おい待て__っ!?」
チーフは追いかけようとしたが力が抜けたように足腰が崩れてそのまま立ち上がれなくなっていた
後ろでチーフが怒りながらも泣きそうになっている声と現状に言葉が出ないシェフ達を無視して、『名前』はそのまま厨房を後にした。