第5章 Investigative
これは私のワガママだ。願望だ。
私は彼に何かを期待しようとしている。誰も信用していない彼ではないと。
でもわかっているこの願望は『設定』がある以上叶うのはは不可能だということを。
「わかってる……こんなにしてもらってるのに、虫が良すぎるのも。でも……」
切ない。
ああそうだ、切ないんだ。彼がそうなってしまっているのが。
彼はあまりにも可哀想なキャラクターだ。来歴が悲惨なのはどこからどう見てもそうだろう。
彼が今 あんな ふうになってしまったのもそのせいだから。
私はその『設定』がある以上彼に心までは捕らわれないようにしなければ気づいた時には私は切られてしまう。
きっとここまでしてもらっているのも彼の なんとなく でしかないだろう。それでも
「私は……彼に何か、返せないかな」
私の微力では彼の助けになることは無理だとしても、彼に何かを思い起こせないだろうか。
彼女、ステラと出会った時に感じていたであろう 感情を。
『名前』はなおも鮮やかに景色を映し出す窓を指でなぞった。
カーテンで遮断され景色の上に立っているような感覚に今にでも自身の身が投げ出されてしまいそうだ。
なんだか怖くなって『名前』はカーテンを押しのけて元の部屋に自分がいることを確かめた。
暫くは……景色は見ないでおこう。
作業机に広がる資料が目に入る。さっき彼が紙を一山運んだデスクには判子が全部押されていた。
「……せめて、か」
『名前』は髪をまとめて作業机の前に座り仕事にとりかかった。
…
あれから5日間経った。
『名前』は早寝早起きを徹底しテゾーロが部屋に立ち入ろうとも目もくれず仕事に熱心に取り掛かっていた。
テゾーロは何度か『名前』を気にかけその都度声をかけたが、『名前』はその5日間は別人のようで、なんとなく彼も最低限のこと以外彼女に言わなかった。
そうして今、『名前』はペンを止め髪の毛を結んでいたゴムを荒く外す。
「っと……これでおしまい!」
彼女が5日間根を詰めしていたこと。それは今手元にある仕事を全て無くすことである。
納期が何ヶ月も先のものも全て終わらせた。とにかく出来ることは全てやり尽くしたのだ。
「この感じなら2ヶ月は暇ね。もう二度とこんなことしたくないけど!」
身体に疲れがのしかかった