第5章 Investigative
確かにあの痛みはもう二度と思い出したくない痛みだろう。こうやって会話のネタにできること自体おかしい。
だが『名前』には耐えれるだけの理由があった。
「……だってもう、慣れてましたから」
「?どういう意味だ」
実を言うと『名前』の現在の両親は血は繋がっていない。
つまり……『名前』は養子だ。
養子にされるまでそのもとで過ごしていた血の繋がりのある本当の親は所謂、虐待をする人だった。
嫌な思い出だが、彼女は小さい時に暴力を受けていたからこそブラック企業務めにも天竜人の扱いにも耐えることが出来たのである。
しかし、この世界では私には戸籍というものがない。
どちらの親もいないからだ。なので彼女はそれとなく彼に伝えることにした。
「昔、暴力を受けてました。日常的な暴力を。」
「!」
ぴくりと反応した彼の動きが背中から伝わる。
「この印ほどじゃないですが……熱した鉄を当てられたことならあります。性的な暴力だって。」
アイロンを背中にあてられた小学生の夏の思い出。
……夜に父に襲われた冬休み。
「だからですかね、天竜人に仕えれたのも……」
「……」
ふ、と自身を嘲笑しながら彼女は宙を見つめた。
「最初……記憶がないと言っていた筈だ。嘘をついていたのか?」
「!あぁ、そうですね、半分嘘で半分本当です。
幼少期にそんな虐待を受けたことだけはうっすら覚えてます。……いや、思い出したに近いかな。」
この蹄によって。 と付け加えて『名前』は後ろに座る彼に微笑んだ。
その笑みは穏やかではあるが 彼が求める『名前』の笑顔には程遠く、諦めが見える。
なんとなくいたたまれなくなりテゾーロは今度はしっかりと彼女に抱きついた。
のしかかっていた体重が消えて、思わず『名前』は わ と言ってしまう。
「どうしたんですか?さっきかららしくないですよ」
その話を聞いていつも通り振舞えと言う方がおかしいが、彼女にある『テゾーロの印象』と現実は違う。
勿論彼にも常人の心はあるので彼女の発言にため息をついた
「お前が……いや愚問だったな」
「?」
いつもなら言えた言葉をかけれない自身に苛立ちがつのる。いつもなら心ではそう思っていなくても、辛かったな、や頑張ったな、を言えたのに。
彼はそんな言葉で済ませてはいけない気がした。