第5章 Investigative
彼の吐息が歳を重ねた彼を唯一表すのかもしれない。
でもそれ以上にそれ故の色気が勝っている。
(これだけでどれだけの人を落としてきたんだろう……)
ふとそう思いながら背中の蹄を隠すように『名前』は身体にタオルを巻いた。
ゴムで軽く髪をまとめて振り返るともう彼はこの場にはいなかった。先に風呂場にいったのだろう。
『名前』は彼の後を追うように風呂場へ向かい入った。
__入った途端 ふわり、とシャンパンのような香りが鼻をくすぐる。
湯気が立ち込めるその場に次第に目が慣れて視界が晴れると、広い湯船に浸かる彼がいた。
「……!」
黄金の湯に浸かる彼に初めて私は 黄金帝 という呼び名が本当に彼に相応しいと感じた。
映像ではわからなかったが直で見ると迫力は数倍も違う。
……なんて、美しいんだろう。
「……どうした、もうのぼせたか?」
「!」
馬鹿にするように言う彼の声で我に返った。
やっぱり彼は彼だ。あぁムカつく。
『名前』は冷静を装いながら軽く微笑み
「いえ、いい香りがしたので」
「ハハハ……そうか」
はい とこたえて『名前』は彼の元に近づいた。
途中にあるかけ湯を身体にかけ、湯船に足を入れる。金色の湯に若干戸惑いながらも入れてみると意外と普通だ。
わかっていたことだが、流石に溶けた金ではないらしい。もしそうなら足を入れることすら ままならない 程熱いだろう。今頃大火傷だ。
『名前』は彼から大きめに距離をとって完全に湯船に浸かった。
日本人だからだろうか、こんな状況とはいえど温泉に浸かると顔が緩む。寝ようと思えば寝れるほど心地良い。
そんな彼女をみてテゾーロは へぇ と零した
「そんな顔も出来るのか」
「! すみません」
「いや、いい……」
気を引き締め直そうとしたが彼は何故か満足そうな表情でこちらを見ている。
許可されたならまあいいか と考え『名前』はまた顔を緩ませた。
その顔にテゾーロは少し胸が跳ねた。いつも真顔か不機嫌そうか、事務的な笑顔の彼女しか見ないので意外だし嬉しい。
基本テゾーロは許可を得ずに勝手に自分以外が笑うことを許さない。彼が奴隷時代だった頃トラウマの影響で。
だが何故だろう、『名前』なら別に不快に感じない。
……寧ろ
「……『名前』」
「?はい」