第4章 勤務初日
彼女の見張った目にテゾーロはやっと手応えを感じ口元に弧を描いた。
(……!これで少しは本性を見せるんじゃ)
彼は期待の眼差しで彼女の瞳を見続けた。がしかし、
「いや ないないないない、それはないわ〜」
彼女は半笑いで手をひらひらと振る。思わずテゾーロも気が抜けて
「は」
と、声が出てしまった。
そんな彼をおいて『名前』は半ば煽るように彼に言い続ける
「だってまだ私が取引相手ならまだしも……私、元奴隷ですよ?」
「い、いや」
「今更 天竜人のことでも聞き出すんですか?わざわざ体はって?馬鹿じゃんっていうか天竜人に金渡せば即落ちでしょ」
「……」
余りにも見当違いな上にこの船内で過ごしていて初の男としてのプライドがズタボロにされ、テゾーロもついには黙ってしまった。
黄金帝が元奴隷に黙らされるという有り得ない構図が出来上がってしまったのである。
「金という手札がありながらそれは__あっはは!テゾーロさん冗談きついですって〜!__」
「……おい」
「えっ」
ドスの効いた声が聞こえ笑い涙さえ出ていた目を開けると、テゾーロは物凄い剣幕で睨んでいた。
瞬間、『名前』は (あっ、やらかした)と思ったのは言うまでもない。
そんな彼女の後悔を認めさせたのは、肩を掴む彼の手がすこぶる力が入ったからだった。肩に食い込む手は余りにも痛い。
「っい゛……!?」
「お前は……少し立場というものが……わかってないみたいだ……なあ?」
流石に『名前』も怯え、最初の す が消えかかった謝罪の言葉が小さく口から放たれる。もはやうめき声だ。
「……み、ませ……え゛ぇ」
「ハハ……やっと、そういう 顔になったか」
余裕さが消え青ざめた彼女の表情に彼の胸の奥底が疼く。悪気しかない心が目の前の彼女をめちゃくちゃにしてしまえと叫ぶ。
だが、その心の正体が掴めず動揺した自分がいた。
「っ……?!」
「?」
彼女のほうに意識を向けると私に対して驚きの視線を向けていた。まるで、私じゃない何かを見ているような。
一体何が見えている?私は今どんな顔をしている?
「……なんでそんな顔をしてる」
「っ!だって……その、普通貴方がその顔をするのは……」
そう言って『名前』は俯き黙ってしまった。
どういう意味なんだろうか、ますます気になる。