第4章 勤務初日
じゅるりと涎がでそうになるのを抑えて、『名前』はナイフとフォークを手にした。
「火傷には気をつけろよ」
「あははダブルダウンさんって優しいですね」
「客だから当然だろう」
そんなもんなのかな、と思いつつ『名前』はステーキにナイフをいれた。繊維がぶつぶつと切れる。
1口分切り取りまずはそのまま食べてみた。
「__んっ……まぁ!」
美味しすぎる、なんて美味しいんだろう!
この味を、食感を、表現出来ない自分がもどかしい。
こんなお肉らしいお肉はじめて食べた!
昨日テゾーロがご馳走してくれた食事も繊細で美味だったけれど、私にはこれくらい荒っぽいほうが合ってるみたい。
「いい食いっぷりだな」
美味しさに幸せを感じているとダブルダウンは口元を緩ませた。
「ほんっと美味しいです!ああ〜やっぱりお肉最高だなぁ!この船高級料理店ばっかりで、嫌になっちゃうんですよね」
「この店も一応高級だが」
クスリと笑うダブルダウンに『名前』はハッとする
「違、えっとそうだけどそうじゃないっていうか、なんて言えば……庶民的?」
「全然フォロー出来てねぇぞ。ハハ」
良かった機嫌を悪くさせた訳じゃないみたいだし。むしろ笑ってる?まぁいい好都合。
『名前』は一通り食べてからダブルダウンに真剣な表情を向けた
「あの……一つお願いがあるんです」
「?どうした」
ウイスキーに口をつけナプキンで口元の汚れを拭う。『名前』は緊張を抑えるために息を吐いた
「__私、ここに通ってもいいですか」
「……は?」
気の抜けた返事にずっこけそうになるが、なんとか天を仰ぐだけで抑えられた
「なんですかその返事、危うくひっくり返りそうになりましたよ!」
「いや逆に聞くがどういう意味だよ、こっちの台詞だ」
この世界、いやこの場では……私の立場は恨まれるべく者じゃないの?幹部だよ?
「いや、その……私の立場を考えると気を悪くされるかなって。でも私この店好きなんです。あなたにとっては2回目で何言ってんだって感じでしょうけど!でも本当なんです!」
「……」
「そのかわり、売上には貢献します!お願いします!」
真剣に頼んでくる『名前』をぼーっと見つめ、暫くしてダブルダウンは堪えきれず笑ってしまった
「……ははは!お前おかしなことを言うな」
「えっ」