第4章 勤務初日
テゾーロは『名前』がエレベーターへ向かい見えなくなるまで見届けた。
「……ふふ」
笑みがこぼれる。
さっきまであんなに邪険にしてきたくせにあんな顔で礼を言うとは……調子の良い奴だ。
それにどうやら『名前』は金や名声目的で寄り添ってきた女じゃあないらしい。まあそんな奴なら私も昨日のようなあんなマネはしないが。
だが収穫は想像以上に良かった。
捻り潰してやりたい天竜人の船を爆破させ、まんまと何もかも騙された彼等のリアクションは最高だった
流石の私も部屋を出た後に大笑いしてタナカに不審がられたな。
あの時のタナカの顔も傑作。
今回の天上金も終えた……暫くは天竜人も来ないだろう。次会う時にはもう『名前』の顔も忘れているだろう
「……完璧だ」
テゾーロはニンマリと笑みを浮かべたまま足を組みなおした。
ちらりとバカラのほうをみると見たことがないくらいにニヤけている。
さっき『名前』との話が聞こえた限りではバカラは妹が欲しいとずっと思っていたらしい。あいつが本当に妹ならありえないほど手がやけるんだろう。
__それはそれで面白そうだが
ともかく……幹部同士の争いはあの様子だと無いだろう。
これも『名前』の持ち合わせた才能と言ったところか?
__だがそれはそうとして、
『名前』は信じきってはいけないことは確かだ。疑いがはれたわけではない。
昨日は散々体の一部を金に変えたが一切私情を漏らさなかった。奴隷以前の話も聞いたが昨日会ったばかりのやつだ、にわかに信じ難い。
恐ろしいのは言ってるのが嘘には見えないこと。
私はあれをきいてまんまと信じるバカではないが、あの目は曇りひとつなく透き通った目だった。
話してる限りでは記憶喪失と言ってもいいほどだが……あいつは本当のことを言っているからああなのか。
__はたまた、平気で嘘をつくサイコパスか。
「……何はともあれ、暫く暇にならなさそうだ」
妖艶に、艶やかに、口元に指を添え笑うテゾーロの姿に、周りは背筋が凍るような感覚を覚えた。
…
一方『名前』は、ホテル THE REORO(以下ホテル レオーロ)を出て、周辺の街ダウンタウンに訪れた。
所々でテゾーロに奴隷のような扱いを受け働く人達が出勤中なのか何人も見かける
ふと現実のことがよぎった