第2章 グラン・テゾーロ
だが下手に嘘をついても彼相手には無意味だ。一かバチか、納得させるほかない!
「ここまでしてもらって悪いけど、あなたの思い通りにはならない……いや、できない」
「何が言いたい?」
「私には記録された個人情報はおろか、私の記憶すらないからですよ」
「は?」
彼は私がふざけていると思ったのか、少しずつ私の身体を金に変えていく
「あはは慌てないでくださいよ、ちゃんと説明しますから」
「……」
彼の沈黙を承諾したと捉えて、現世にいた時に会社で何度かしたプレゼンを思い出しつつ語る
「今からほぼ一か月前、目を覚ますと天竜人に捕らえられた私は強制的に奴隷になりました。信じられないとは思いますが、私はそれ以前の記憶が無いんです。何処で生まれどう育ち、何をもって気を失ったのか……何もかも。」
もちろん本当は過酷な環境の中、義父母に育てられつつ社畜人生を歩んだ現世の記憶はちゃんとある。
しかしそれを彼に言ったところで意味が無い。ここは記憶喪失としたほうが都合がいいだろう。
「たしかに信じ難いが……お前の主人から何も聞かなかったのか?」
「道端で倒れていて不躾だった、としか聞かされていません」
「……」
テゾーロの表情が少しずつ曇り、私の身体をのむ金を止まる
「……そこから地獄のような日々を乗り越えた挙句、天竜人に気に入られるために何でもしました」
「……」
「そうして今の私があるんです。もちろん異例であることは理解してます。その証拠にあれとか」
少し離れた場所に放り投げられていたジュラルミンケースを目でみやる
「貴方がさっき搾り取ろうとしたあのお金はご主人様から貰ったものです。ともかく、私もこの状況には驚いて__」
「待て」
ハッとしてテゾーロを見ると彼は大層困惑した様子だった。
「……お前は今、何の話をしているんだ」
「私の経歴ですけれど」
そう答えた私に彼はますますわからないと言いたげな表情をする。
「お前は……何処かの組織の一員じゃ……」
「へっ」
あまりにも見当違いなことを言われて私も彼と同じような顔になってしまった
「全然違いますよ!なんかの組織だとして誰がそんなことはい分かりましたってやるんですか!」
「そうでもなければ奴隷がそんな待遇など受けられるはずがないだろう?!」
「……知るかタダの奴隷だっつってんだろ!」
「?!」