第12章 新たな刺客
最初こそは物語を知っていてもグラン・テゾーロのシステムや接客にかかわるような内情はわからなかったが、この地位で長く過ごしていくうちにある程度の知識はたくわえられた。今の私なら海軍のだれかと関わりを持つことができるかもしれない。
幸い重役が相手だとしても話を合わせられるような、彼らにとっての敵である海賊の知識は十分にある。それにあのドフラミンゴとの一件は最悪だったが話の話題としては良い材料になる。興味をひかせることが出来るはずだ。
そうとなれば、と早速『名前』はタナカさんへ内線をし、外出の許可を得るために現在のグラン・テゾーロの危険度や状況を聞くことにした。
「お疲れ様です『名前』です。ええとお聞きしたいことがあって…………」
…
賑やかな表通り、笑顔やら苦悩の表情やらとさまざまな表情を示す人々。最近あった出来事を考えるとまるでそれらが嘘だったのではないかと思うほど、たった数日でいつもの賑やかさを取り戻していた。また警備やらの体制を強化したばかりだからか、危なげな騒がしさもあまりない。このとおり1人でも安全だろうと無事許可を得れた『名前』はベンチに座って通り過ぎる来客者を眺めていた。
「海軍はいるけれど、やみくもに恩を売っても逆に怪しまれる……どうしようかな。」
勝ち星を得たのか羽振りよく連れそう美女のためにたくさんのショッパーを持つ海兵、それよりも位が高そうだが今まさにスペシャルゲームへの案内でもされて搾られそうな海兵、運が悪かったのか落ち込んでいる海兵。どれも恩自体は売れるがその後にあまり続かなそうである。
しいていうならば部下の搾取を(後に事情を伝えるといえど)阻止して恩義を感じてもらうぐらいだろうか。まあ彼がそのへんきちんとしているかはわからないが。
「…………黙って見てても仕方がないか、緊張するけど毎日外出できる訳じゃないし、せめて1人くらいは顔見知り作っとかないと。」
いつまでも人間観察をしていても意味が無い。わざわざここまで行動したのだ、成果は作らねば。そう自らに言い聞かせて立ち上がろうとしたとき、聞き覚えのある声が刺さるように耳に入った。
「───うわああああああ!!!どうすりゃいいんだあああ!!!」
「──だから言ったじゃないですか!?やめときましょうよって!」