第12章 新たな刺客
こうして今回起きた謎の勢力による襲撃は狙われたグラン・テゾーロ、宣戦布告された革命軍、そして同じ現世出身の『名前』と多くの者共に影響を与えた。それぞれにその勢力に対して思惑がある中、グラン。テゾーロは嵐が過ぎ去ったかのように落ち着きを取り戻しつつあった。
あれから3日が経過した。その間何も無かったといえば嘘だが、先日の襲撃に比べればなんてことのないものばかり。少なくとも事務職で自室にこもる私には関係のない少しの騒ぎだった。
襲撃のせいか立て続けにあった商談もパタリとやみ、やみくもに外に出るなと言われずとも外への用事がなかった。本音を言えば新聞を受け取りにWILDCOWへ行きたいところだが、さすがにそうもいかない。それに前から仕事が忙しく頻繁に行けていなかったし、食事だってルームサービスがある。
そんなふうにこもっているせいか、前より廊下ですれ違う部下やバカラさん、タナカさんらから心配そうな、気をつかわせているだろうなと感じることはなくなった。みな、いつも通りに私に接してくれていると思う。変わったことといえばダイスさんがたまに、恍惚とした表情で笑っているのを見かけるようになったくらいだろうか。
そしてテゾーロはというと、忙しいのかこの部屋に来る頻度が少し減った。たぶん襲撃のせいで離れていった客を戻すためにショーやらなんやらに力を入れているのではないだろうか。彼の部屋へ資料を渡しに何度か行ったが姿を見なかった。
あと今回強く手を結ぶことになった革命軍および、サボも今のところ姿を見ない。新たな敵に標的にされたのだから当然だ。情報収集でもしているのだろう。いやそもそも革命軍自体忙しいのかもしれない。
なんてたった3日間しか過ぎていないのだが、感覚としてはそう思う。気のせいだと言われてしまえばそうかもしれない。けどどこも忙しいのは当然だろう。彼らにとって今回の相手は確実に"未知"なのだから。
「まあそれは私もなんだけれど……。」
はあ、と どうしようもないことにため息をつく。順調にこなした業務を横目に一度背伸びをした。もともと引きこもるのは慣れていたが作業がもうあと少しで無くなってしまう。私向きのものが今は少ないのだ。
ふと今回の襲撃についてもう一度振り返りつつ、脳内に『青年』の言葉が流れた。──悟られないこと、生きること。