第12章 新たな刺客
「……!」
普段では見られない、いつになく協力的な姿勢の2人を見て数秒ほど見たあと、テゾーロは ふ、と穏やかに微笑んだ。一体『名前』が何を思い何を隠しているのかは検討もつかないが、どんなものであれど少なくとも、この2人は受け入れるのだろう。彼女はこの国にとってだんだんとその存在が欠かせなくなっているのだから。
彼らに現場回復を任せれば直にこの場を解放することもできる。テゾーロはその場を後にするように背を向けた。
「……ところでアイツは何をしているんだ?」
「──フ、フヘッ、エへへへ……。」
「ダイス様!そろそろ気を確かにしてください!」
テゾーロが向いた方向にはダイスが白目で頭部から血を流しながら笑みを浮かべて地でうごめいていた。見た目に反して本人はとても幸せそうである。それを囲うようにいる部下らが我に返らないダイスの常人1本分はありそうな腕や脚をそれぞれが揺さぶりながら声をかけていた。
「ギモヂイ、グフフ……。」
「しっかりなさってください!丁半のあの鉄の籠を無事に頭でぶち割ることができるのはダイス様、あなたしかいないんですよ!?」
「もっと……エヘヘッ。」
依然悦びに浸ったままのダイスに泣きそうな顔になる部下たち。1人がテゾーロの視線に気づき神にすがるように泣きついた。
「テゾーロ様!ダイス様が久しぶりの戦闘の悦びに加え、痛みに快感を覚えすぎて正気を取り戻しません!」
「……。」
「目を覚ましてくださいダイス様!あなたほどの巨体、我々が動かすのに何時間かかると思ってるんですか!?」
依然動く気配のないダイスにさらに部下らの顔が青ざめていく。当然だこんな血まみれで気色悪い笑顔の巨体が床でうごめいてはエントランスは一生解放できない。客は皆トラウマを植え付けられ奇声を上げて、その夜は悪夢にうなされるだろう。
テゾーロはため息を1度吐いてから額に手を当てる。
「……はあ。」
ああ、どれだけ部下が優秀で信頼があるとしても、立ちはだかる壁は計り知れないのだなと目の前の状況にテゾーロは呆れつつ、大人しく彼自らがダイスを担いで持ち場に戻ることにした。