第12章 新たな刺客
「反抗し、暴力を振るわれようとも情けをかけたアイツが買う恨みが──いや、天竜人の奴隷への暴力を一身に受けることを選ぼうとしていた以上誰がアイツを恨む?」
バカラの意見に同調するテゾーロ。たしかにテゾーロが最初『名前』に天竜人から解放しようと提案した時、彼女はほかの奴隷に向けられる暴力を思い、提案を断った。もはやあの扱われようでは死にかねないというのに。
「たしかに。『名前』様はこの船における、唯一の良心と言ってもいいでしょう。私も恨みを買われているとは正直思いませんが……事実、『名前』様が奴隷になる以前の話はまだ明かされていません。」
「!」
「するるる、テゾーロ様もそれを知るためにあの場で彼女を問い詰めず、泳がせたのでしょう?」
思わず図星と顔に書いたかのような、自分でもそう思うような表情をしてしまい息が詰まるような思いをする。それを受けてタナカさんは少し意地悪そうに笑った。
そうして テゾーロの脳内に彼女の過去に対する思いが過ぎる。どんな情報も容易く得てきた、強固な情報網を使っても。どれだけ彼女についてを調べようともチャルロス聖の奴隷だったこと。それ以外の情報は何一つ得られなかった。
彼女を解放するにあたって迎えた同様のチャルロス聖に仕えていた奴隷たちだってそうだ。彼女は突然天竜人の歩く道に気を失った状態で現れた。この世界ではそれがどれだけ不運で愚かでありえないことかだなんて、子供でもわかる。しかし既に成人を迎えていた彼女は突然現れたのだ。
……そんなことありえない。誰でもわかることだ。いや以前から命知らずで世間知らずだとは知っていたが、それにしても度が過ぎている。数ヶ月過ごしたことで彼女にどこか圧倒されて、そういうものだと受け入れていたのだろう。そうやってずっと無視していたことに私たちは向き合わなければならないのだ。
それまで批判的だったバカラもたしかに、と彼女の中で何か納得したようなスッキリした表情となった。
「たしかに、そのほうがあの子も話してくれるかも……。」
「今回のことを考えると口は固そうですねェ、また同じ襲撃や動きがない限りはしばらくは情報収集ですね。」
そうして2人は引き続き現場回復に努めつつ、部下らに『名前』について調査を進めるために指示を取り始めた。