第12章 新たな刺客
「当然よ。"アレ"がそう言った以上、『名前』にも何かあったに違いないわ。服はボロボロだったしそれに……何より電伝虫から。」
バカラがそう言ったのを皮切りにタナカさんは笑いながら胸元から電伝虫を取り出した。
「するるるる、そうですねェ……。相手はこちらが把握出来ていない謎の組織のうえ、『名前』様が狙われること自体はそう珍しくはないのですが……。」
彼はカチリと電伝虫のボタンを押した。ザザ、と何か聞こえるが砂嵐と電波が悪いのかよく聞こえない。次第に酷い砂嵐は落ち着き、男の声と『名前』の声が聞こえてきた。
『……ジジ、ザザ──「どうした、『名前』?」
「いや、私……まさか、えっと……。」』
音声を聞くに『名前』と思わしき荒い息が続く。微かに『名前』の名前を呼んだ協力者らしき者とは別の趣味の悪い笑い声。音声だけで彼女に寄り添う者とは別の、敵対意識を持つようなもう1人男がいるのがわかった。
『───「……"蹄"は、痛かったか?」
「う゛、おえ……」「『名前』!?」──ザザッ』
『名前』の嘔吐く声と協力者が『名前』を呼ぶ声、相手に対する怒声やらと、まだ会話は続いてるように思うが大きな砂嵐が鳴った後はもう何も聞こえなくなってしまった。
「───するるるる。と、このように簡単にやり過ごしたとは言えませんねェ。『名前』様が助けを呼ぶために受話器をとったとは思えませんし、おおかた交戦中に落としてしまったのでしょう。衝撃貝をむこうは所持していますし。」
「どちらにせよ『名前』は襲われたのよ!なのにあんな……私たちに隠して……。」
バカラは俯きながら悔しそうに自身のドレスの裾を握る。タナカさんも笑ってはいるがご機嫌そうとはいえない、それが本心とはいえない様子。
「きっとここが大変なことになっていたから、心配させないようにってあの子、無理してるんだわ……。」
彼女は『名前』に嘘をつかれたことや隠し事をされていることはそう気にしていなかった。しかし何より数ヶ月とはいえ、ともに過ごしていながら自身を頼って貰えなかったことが悔しかったのだ。しかしそれはこの場にいる誰もが同じ思いだった。