第12章 新たな刺客
「……」
当然のように言う彼を見て、私が今何を言おうと彼が全て阻止するだろうと諦めた。納得がいかないが大人しく彼に従うしかない。それに実際に疲れているのだし今日は彼の言葉に甘えて、明日以降にバカラとの時間をとって聞けばいい。
「……わかりました、何か手伝えることがあればいつでもおっしゃってください。ではお先に失礼します」
……
周囲に礼をして『名前』はタナカさんに声をかけ、2人はエレベーターへ向かいその場を後にする。2人が去ったのを見届けたあと、テゾーロはため息を吐いた。先程まで大人しく下がっていたバカラが声をかける。
「テゾーロ様、少しよろしいでしょうか」
「……何だ」
「ありがとうございます、──なぜ先程、止めたのですか」
さっきまでの従順なバカラとは打って変わり、彼女が『名前』に投げかけようとした質問を遮った理由を問いかけた。テゾーロは黙ってバカラが続ける言葉を待つ。
「……」
「テゾーロ様もご存知のはずです。タナカさんが言っていた電伝虫から聴こえた怒声……いえ何より、実際に目の前で聞いたはず」
彼女は す、と死体処理班や医務員が調べている、奥の壁に残されたままの襲撃してきた集団の一部、1つの屍を指さした。
「不運にも、いや幸運にもでしょうか?逃げ遅れた"アレ"を尋問中、自害する前──」
「───『『名前』はどこだ、私たちは『名前』を探しに来た。』とおろかにも吐きましたねえ、するるる」
「「!?」」
バカラが言う前に突如、2人の近くからいつもより少し気味悪く笑いつつ、ぬるりと地から現れたタナカさんがバカラの代わりに言った。驚いてバカラもテゾーロも少しだけ後ずさりする。
「タナカ、もう戻ったのか」
「ええ、酷くお疲れだったのでしょうか。部屋まで見送りましたが私が出るより前に、泥のように眠られましたよ」
「……そうか」
そう聞いて彼の表情が少しほころいだのをタナカさんは見逃さなかった。特に指摘することなく、彼らしく笑いながら微笑ましくしている。対するバカラは逆に気の毒そうにしていた。