第12章 新たな刺客
「(……まさか電伝虫が受信していて、それを気づかないまま何かの拍子で飛んでいった上に、受話器がとられていたの?)」
そんな私の知らぬ間に偶然が重なっていたとは。危なかった、ヘタな嘘をつけば疑われてしまうところだった。どのタイミングでそうなってしまったかは正直予想がつかないがタナカさんの言う通りならそうなのだろう。
実際、サボに向けてはなたれた衝撃貝は少し離れた私のところに、いやサボが吹き飛んだことで生まれた衝撃波はこちらに痛みはなくとも強い風を生んでいた。銃弾を避けたときだってそうだ、心当たりはある。
……そもそも、聞こえた怒声がまだ相手組織のものだと現場にいない、聞いただけのタナカさんには分別つかないはずだ。焦る必要はない。だが──あまり嘘を言いすぎるとこれ以上彼が何かをわざと隠しているのなら誤魔化しが逆効果になってしまう。
『青年』に言われた通り生き延びることはもちろん、この事態と物語ではない外部の、"現世"という存在をテゾーロたちに悟られてはならない。だから本当のことを言えないのはそうだが……いや、そもそも言ったところで信じて貰えず、私が無駄に怪しまれて終わるのが目に見えている。
それより何より、現世からの介入で迷惑をかけてしまったなら同じく現世から来た私が責任をとりたい。物語は物語通りになってもらいたいし、これ以上迷惑をかけたくはないのだ。
『名前』はごくりと焦りからでた唾液を飲み込み、タナカさんとテゾーロをきちんと見据えた。
「その怒声は……きっと相手、もしくは今日私を守って下さった方の者だと思います。身を隠してやり過ごしたのがほとんどとはいえ、一度交戦はしたので。」
「なるほど、そうだったんですね。」
「あくまで私は何もしていない、と言ったところでしょうか……向こうの狙いは私ではなく友人だったので。」
「え?」
その返しに少し戸惑うタナカさんの聞き返しに動揺しないよう、できる限り声のトーンを変えずに続けた。
「……それまで身を隠していましたが、対面しても私は命を狙われませんでした。向こうの狙いは一緒にいた私の友人だったので。」
『名前』は本当のことと嘘を混ぜて彼らには伝えることにした。嘘を言いすぎると後で面倒になる、しかし私には何も無かったのだと、気にしないでもらいたいと思ったがゆえの考えだった。