第12章 新たな刺客
少し気にかかる部下からきた、あの連絡が脳裏によぎったがまあいい。今はそれよりバカラさんのこの異常な心配を落ち着けなければ。彼女の、徐々に抱きしめる力が強くなってきたために息苦しくなってきた。このままでは彼女の胸の中で窒息してしまうと彼女の背をポンポン叩く。
「うう……あっごめんなさい、つい!」
「ぷはっ!──いや全然、むしろこんな心配されちゃうだなんて、すみません。やっぱり電伝虫を野生化しちゃった間に連絡くれてたんですかね?」
「!?、それもそうだけれどそれより────」
バカラが理由を言いかけたところでこちらに誰かが足早に駆け寄るのに気づいたため、2人はそちらに振り向いた。いつもより少しだけ乱れた呼吸、駆け寄った彼はただこちらを黙って見ている。
「……『名前』。」
「テゾーロ、様?」
バカラは彼から何かを察したのかそっと『名前』から離れ2人から距離をとる。恐る恐るテゾーロが『名前』の頬に手を伸ばし、いつの間にか砂埃にまみれていた彼女の上着を見つつ、こわれものを扱うように触れた。
「……怪我は」
「?──私は大丈夫です、ちょっと擦ったぐらいです。」
「そうか。」
「しいていうなら不注意で電伝虫を壊してしまって……野生化して連絡が。」
「そんなこといい、お前が無事ならそれで良かった。」
そう言って彼は親指で私の頬をそっと撫でた。なんだろういつもと違って彼の態度がやけに優しい。以前のように大怪我をした時でさえ少し笑っていたような……いや、あの日についてはあまり記憶が鮮明ではないけれど。
『名前』がそう考えていると彼は心配をよそに何でもなさそうな彼女に安心したのかふ、と笑みながら手を離れさせた。タイミングを見計らってタナカさんがゆっくり2人の近くへいき、『名前』に声をかける。
「『名前』様、ご無事でよかったです。」
「タナカさん!ありがとうございます、おかげさまで。」
「ひとつお聞きしたいのですが……『名前』様、ダウンタウン付近にいらっしゃったのですか?」
「え?」
彼に言い当てられて背に冷たいものが走るような感覚がした。私は以前起きた暴動やらなんやらによってダウンタウンにはできる限り近づかないように言われている。『青年』と話す時やWILDCOWに行くのであまりきちんと守っていないが。