第2章 グラン・テゾーロ
後でこの道を選んだことを後悔することも知らずに。
しばらく歩くとこの船には似合わない古びた家や餓死寸前の人で視界が埋まった。
地を這い蹲る彼らを助けてあげたいのはやまやまだが、このお金はあくまで天竜人から預かったもの。
彼らに渡すと私はもちろん、彼らも後で暴力を受けてしまうだろう。もし彼らが逃げたとしても天竜人の権力をもってすれば時間の問題だ。むやみに助けてもなんの意味もない。
罪悪感を感じながらも彼らの虚ろな視線を無視して歩く
しかしその中に、違うものが混じっていることに気づき立ち止まった
__何か、違う
異様な感じはするのに見えない。いや、正直それは勘だけど。
しかし、これだけ私が気づいた素振りを見せているのに向こうの反応はないのは何故?
そう思っていた矢先、
「……鋭いな」
「!この声__」
逃げようとした頃にはもう遅く、目の前にある家屋から伸びた金色の触手ががっちりと身体を掴んでいた
___この能力、テゾーロに違いない!
もがき振りほどこうとするも、固くも柔らかくしなる触手はあっという間に私を強引に家屋に引き寄せた
それに入るやいなや声の主の前まで引き摺られ、金の触手が両腕を拘束し手錠に変化する
動きが止まったのを確認して、『名前』は彼をにらんだ
「女性に対してこんな扱い、酷いですね」
「ハハ……こんな所を歩く君が悪い」
テゾーロは相変わらず気味悪い笑みを浮かべ、足を組んで椅子に座っている
「こんな所?……あなたに言われたくないです」
「お前は興味本位だろう?私は違う、お前に用があるから仕方なくこうした」
「私に?」
用があるなら何故さっき呼び止めなかったのだろう、あの時に疑ったのなら拘束したっていいはず……だなんて考察していると、彼がくすくすと笑っていた
「何を考えているかは知らないが、私から逃げられるとでも思ってるのか?」
「……バカにしないで!」
「!」
反抗した私に彼は少し驚きつつも へえ、とこぼし目を細めた
「そういうことも言えるのか」
「なに、気に障る?」
「___ハハハ!自由にしろ、何せ私はお前の主人じゃないからな」
「あっそ、こんなことまでして何の用?」
「少しは思い当たる節があるだろう、馬鹿じゃあるまい」
「……なんとなくは」
テゾーロは嘲笑し地べたに座る私を見下ろした。