第12章 新たな刺客
フフ、フフフと笑いながら男はゆっくりと後ろへ下がる。サボはいつでも戦えるよう男を目で捉えたまま離さなかった。
「また今度楽しもうじゃないか、その時には──お前の弟も。」
「弟?何の話───」
サボが聞いている最中に男は高く飛び上がり、建物をつたってどこかへ行ってしまった。いつもなら後を追うが『名前』のこともあり姿が見えなくなるまで目で追うに留めた。
「……行ったか。アイツ誰と間違えてるんだ?俺には弟なんていないって確かドラゴンさんが言ってたような、それに───おっと。」
「はっ、はっ……。」
危機が去り、早々に男の言動の意味を考えていたが彼の肩にくたりともたれた『名前』によって我に返った。そうだ今は彼女の無事を確認せねば。
「大丈夫か?もうアイツは行った、今日のところはもう来ないさ。」
「……うん、ごめん。」
「気にするな、"トモダチ"だろ?」
言葉を詰まらせる彼女の背をポン、ポン、と優しく規則的に叩くと次第に眉間のシワが減り、少し表情がやわらかくなった。そのまま数分くらい経ったあとにふふ、と彼女が小さく笑う。その様子を見て少しホッとしたサボは安堵の息を漏らした。
「ふふふ、ありがとうもうだいぶマシ……っていうか、まだ諦めてなかったんだソレ。」
「な゛っ!?認めてくれたんじゃなかったのかよ!?」
「あんなの脅しでしょう、それに私のあの返事から建前だってわかった上で結んだんじゃなかったんだ。」
「建前!?!?手厳しいなァ……。」
ハハハ、と少し力なく笑う彼になんだか申し訳なさと、少しの無邪気な意地悪い感情が湧く。『青年』の忠告通りここで彼としっかり決別しても良かったのだが、ここまで身を呈して助けて貰った以上どうしても拒めなかった。
「……ごめんごめん。さすがにここまでしてもらった以上、拒否なんてできないや。」
「おっ!──ってまた建前とか言うんじゃないだろうな?」
「しないよ!いや、まあ説得力ないけど……でも今度は私からもお願いしたいな。」
私の答えが意外だったのか、そう言うと彼の目は見開きそのまま数秒ほど固まった。ほら、と『名前』は彼に手を差し出す。
確かに私は『青年』と交わした約束の一つ、今起きている状況──私たちが知っている正史とは違うことに動揺している。そのことを周囲に悟らせないことがある。