第2章 グラン・テゾーロ
『名前』がそう応えるとテゾーロの表情が一瞬曇ったものの、はりつけた笑顔に変わる
「ふっ、いい答えだ」
「もちろん賭け金は持ち金全部、ですよね?」
「当たり前だ」
返事を聞き、『名前』は彼の手を解き持ち場に向き直ると、それに呼応するかのように映画の内容がよぎった
「(__確かこのタイミングでルフィ達は運を吸われていた)」
彼との賭けの直前にバカラが対戦相手の身体に触れ、対象者は運を吸われてしまう
このまま運をとられて戦えば間違いなく私は負けるだろう
だけど……正直、ここまで来たなら正々堂々戦ってみたい
私は自分の欲を抑えられず、不審がられるのを承知の上で迫り来るバカラに抵抗することにした
ちょうど手袋を外しかけている彼女と目を合わせて笑顔を向ける
「__申し訳無いんですけれど、離れててもらえます?」
「えっ」
驚き固まるバカラ、そしてこの一言に凍った場の空気。当然それはテゾーロも例外ではない。
まあどうせ私が今度ここに来るのは2年後だ。怪しまれてもどうもならないだろう。
「と、突然、どうされましたか?『名前』様……」
わかりやすく焦りが見えるバカラの声色
ここまで酷い流れでいってしまったならもう突っ走ってしまおう
「やだな、勝つためなら手段を選ばないってだけです。それとも今この場で貴方のネタばらし、しましょうか?」
「!?何を__」
まだ喋っている最中のバカラを無視し、その言葉を遮るように
「半で」
と私は無理やり話を終わらせた
チラリとテゾーロをみると警戒心むき出しな顔
私の目線に気づいたのか笑顔に戻り、丁だと答えた
ダイスは戸惑いつつもゲームを遂行し、難なく結果が判明した。
「……半?」
疑いを持っても目の前の結果は変わらない。そう私は自分の運で勝ってしまったのだ。
普通ならとてつもない喜びに身を包まれ、発狂するのだろうか。私は実際に大きなお金を動かしたというのに、虚無だ。
___なんだ、呆気ない。
「……実感がわかないか?」
「!」
なんのリアクションもない私を見かねてテゾーロが声をかける。こころなしか少し悔しそう。
どう返そうか考える間、彼の目を見つめた
「……」
確かに私のこのお金は天竜人のもの。私のものにはならない。
虚無になるのは当然なのだろうか。