第12章 新たな刺客
そうしてしばらく両者は走っていたのだが、『名前』が普通に限界を迎えたこと。そして何より周囲の視線がだんだん痛く感じたため『名前』は諦めて立ち止まった。振り返りると目の前で止まる汗ひとつ無いサボ、そして息が荒い私。まるで子供が追いかけっこを楽しんだ後のような、とても満足そうな彼の顔に諦めがつく。
『名前』はため息をつきつつサボにお茶でもどうかと提案し、一時休戦をすることにした。……ルフィが関わっている現状、これでも私の中ではまだ諦める訳にはいかないのである。
適当に貴族出身の彼にも見合うような喫茶店を選び、私は特別らしいフルーツティー、彼は金粉が散らされたブレンドティー。そしてそれらに合う軽い菓子を嗜んでいた。
「へェ金箔か、この国らしいな。」
「お気に召されました?」
「ああ、最初はどうなるかと思ったが……いいところを教えてくれてありがとう。」
「……それは何より。」
変に期待を持たせたら後が面倒だ。できる限り平常心を保つように彼に接するよう心がける。チラリと彼を見ると流石貴族出身、所作が他のそれとは大きくとても丁寧に整っていた。こちらが共にいることが恥ずかしくなるぐらいに。
サボの人生を考えるとこの世界の人々の中でも上位になるほど波乱万丈な人生を送っている。
幼少期に海に出た途端、天竜人に撃ち落とされ、それまでに関わりがあった革命軍のトップ、ドラゴンに命を救われるも記憶を無くし……。その結果今も彼は盃を交わした兄弟、ルフィとエースのことを思い出せていない。
そうして彼はエースが処刑された後にその新聞を見て全てを思い出す──死んだのはどこかの知らない海賊じゃなくて兄弟だったんだと。
ということが待ち受けている目の前の彼だが、さっきまでは自分にいっぱいだったがそのことを考えると彼がとても不憫に感じた。これから待ち受けているものが彼にとってあまりにも大きすぎる。
『名前』は先程まで読んでいたルフィについての新聞と『青年』に渡されたまま持っているエースの手配書が入った鞄を意識しつつ、手を固く握りしめた。
「ところでだが、さっきの話は考えてくれたか?」
「!、なんの事でしょう?」
「レイズ・マックスがいない時、おれが代わりになるって話──」
「結構です。」
「なんで!?」