第11章 腕っ節のない女
彼の背を見ながら、『名前』はさきほどカリーナにされた話を思い出す。本当にカリーナの言うようにテゾーロは私のために必死になってくれていたのだろうか?この様子だと悲惨な目にあった私を大笑いしていたと言われたほうがまだ理解出来る。
……そう思いつつ『名前』はテゾーロを見送った。
──……
「……ふう。」
一方『名前』と別れ病室を出たテゾーロは一息つき、今後を熟考していた。さてどうしようかと考えているとまるでまちあわせていたかのように、床からタナカさんがゆっくりと現れる。
「!、タナカ……」
「お疲れ様でした、テゾーロ様。」
そう言いニコリと笑う彼に対しふいと顔を逸らす。そんな様子をするる、と笑いながらタナカさんはより微笑ましくみていた。それに気づいていたテゾーロはため息をつき、背けていた顔をタナカさんに戻す。
「それより──どうだ、"あいつら"から何か聞き出せたか?」
「!ええ───テゾーロ様が危惧していた通り、外部からこの船の一部、おもに新参者を筆頭にそそのかしている輩がいるようです。」
「……やはりか。」
テゾーロらは『名前』に対する暴動を受けたことをきっかけにこの船の新入りを中心に聞き取りをおこなっていた。
躾不足がおもな原因だったとはいえ、それにしても沈静化に時間がかかってしまったのが引っかかっていた。そこで調査をしたところ、どうやら『名前』の手配書を得た海賊が部下らに協力を持ちかけているらしい。
『名前』の厚い人望からそのほとんどは従わず跳ね除けていたようだが、まだ来て浅い新入りどもの多くがその話を耳に入れ熟考していたようだ。……まあもうある程度の"躾"が済んだからそんな馬鹿げたことする者はいないだろうが。
「テゾーロ様の命令通り『名前』様には話がいかないようにしておりますが……するるる、このままでは身が危ういのでは?」
「ああ、だが今言うとアイツの身に負担だろう。以前から騒動続きな上あの身体だからな。」
「承知しました。」
そう返事をしタナカさんは改めて表情を引き締めてテゾーロに軽く頭を下げた。テゾーロはそれを確認すると自身の手元につけている指輪に目を向ける。
「……あまりこういうことは好まないんだが。」
「テゾーロ様、どうされましたか?」
「いや……独り言だ。」