第11章 腕っ節のない女
周囲から私への扱いが異常で特別だと評されていても、何度も助けてもらったとしても、画面越しの姿だけで人を理解した気になっていたと気づいたとしても。
「──"心の底では誰も信用していない"。」
どうしてもこの言葉がこびりつく。
この言葉は現代で何度も見た彼の設定として書き記されている。ここが裏切り裏切られの世界であること、そして777巻で載せられている彼の生き様を考えれば当たり前だと思った。そして画面越しの姿の印象とは違って、その設定は記されている以上覆されることは無いだろう。だからこそそう記されているのだから。
だが彼が私の為に必死になってくれ、つきっきりだったなら───彼を説明するあの文面は覆されるのだろうか。
その答えが何かを思いつつ、バイタルセンサの規則的な音のみが響く部屋で時が流れるままベッドに身を任せた。
……
そうして約5時間ほど経ったのだろうか。私はいつの間にか寝ていたようで身体を起こし時計を見ると数字はもう夜を示していた。そして起きてから気づいた身軽さに目を向けると、たくさん取り付けられていた機械のほとんどが外されていた。
今いるこの部屋は救護室だが、もちろん窓はある。テゾーロの部屋や自室ほどではないが大きな窓からは美しい夜景が広がっている。
「気分はどうだ?」
「!」
目を覚ました私に気づいたのか、声のほうに振り向くと、カリーナの時とは違い今度は左横に移動された椅子に腰掛けていたテゾーロがいた。数秒ほど彼を見ていると彼は私が寝る横でずっと読んでいたであろう小説か何かを閉じる。
「……痛むところは?」
「あ、いや……(心配してくれてる、そうか本当につきっきりでいてくれてたのかな。お礼しなきゃ──)」
『名前』が礼をしようと口を開けた瞬間、彼女の目の前に赤子をあやすのに使うラトル──およびガラガラが現れた。
「!?」
「……」
予想外の出来事に固まる『名前』、それを差し出したテゾーロは無言でガラガラを振り、その音を静まったこの部屋に響かせた。
「───……えっ?」
「………………フフッ。」
………。
「──バカにしてんのかァ!!!!!」
「───ハハハハハハハッ!!!!!」
耐えきれず笑ったテゾーロに全てを理解した『名前』は彼に怒鳴る。対するテゾーロはそれに呼応するように吹き出し大笑いをした。