第11章 腕っ節のない女
「……あのテゾーロが?」
「あら?あなたから見ても意外に感じるの?」
信じようとしない私をカリーナは笑いながら本当だと返す。いや、意外も何も彼はそういう人間じゃないだろう。私がカリーナやバカラさん、タナカさんならまだしも、ぽっと出の私がそこまで気にかけて貰えるとでも?あの心の底では人を信じていない彼が?
「でも本当よ?血で汚れるのを気にも留めないで、意識を失っていたあなたをここへ必死に抱いて運んできたもの。テゾーロガールズにさえあんなことしなかったのに。」
「……」
呆然と聞く『名前』に対してカリーナは続けた。
「それが一つ目の騒動、問題はその後のあなたが意識不明どころか酷い時は心肺停止まで落ちたとき。」
「──心肺停止!?」
声を張り上げた『名前』に驚かず、ただカリーナはきょとんとした。
「さっき言ったでしょ、死線さまよったって」
「比喩表現じゃなくて!?」
「じゃなきゃその身体中についてる機械の説明がつかないでしょ、まあテゾーロの心配も入ってるけどね」
『名前』は確かに、と思いつつ片手に取り付けられたパッドや繋がるコードを空にあげて眺めた。勿論私は医療については有識者じゃないし、本当に危なかったのかもしれない。
でも彼が念には念をと手厚くしてくれたのだと知り、内心安心したとともに彼に感謝した。
「それが1夜目に起きた出来事。2日目は意識が戻らないとはいえ、ずっと寝ていただけよ。」
「そっか……あぁ菓子折り何にしよう……」
「……アンタそういうところ変に真面目よね、嫌いじゃないけど。」
起きてすぐ考えることがそれかと呆れの視線を向けられた。カリーナの言葉を気にもとめずに、『名前』は眉間にシワを寄せつつ、彼らにはアレを彼女らにはコレをと考えている。そんな彼女にまた小さく笑う。
「まっ、あんたがそうしたいならテゾーロにはちょっとだけ特別にしたげなよ」
「えっ?……いや、まあ助けてくれたり運んでくれたりはあるからそのつもりだけど。」
「"つきっきり"って言った意味わかってない?」
「え?」
依然理解していない様子の『名前』にカリーナは仕方がないわね、と苦笑しながら説明した。
「彼ね、あなたがここに運ばれて眠ってから、空けれるスケジュール全部をあなたに費やしてたもの」
「……!?」